カンボジア・アンコールワット遠景

 一読法を学べ 第 11号

実践編T 1「社会(日本史)」




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『 御影祐の小論 、一読法を学べ――学校では国語の力がつかない 』 第 11号

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           原則月3回 配信 2019年 6月18日(火)

 本号より「目次」の漢数字を洋数字に変更いたします。

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 実践編 目 次
 前置き(その一)
 前置き(その二)
 1 社会(日本史)――――――本 号
 2 社会(文化史)
 3 誤答率四割の原因を探る
 4 挫折に終わった一読法授業
 5 実践編の「まとめ」


 本号の難読漢字
・読解(どっかい)・沿岸(えんがん)・丁半博打(ちょうはんばくち)・鎖国(さこく)・忘却(ぼうきゃく)・交易(こうえき)・驚愕(きょうがく)・平山常陳(ひらやまじょうちん)・英蘭(えいらん、イギリスとオランダ)・元和(げんな)・繋(つな)がる・割愛(かつあい)
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************************ 小論「一読法を学べ」*********************************

 『 一読法を学べ――学校では国語の力がつかない 』実践編T

 1 社会(日本史)

 前号で書いたように、これから実践編を始めるに当たって以下の問題意識を持って 読んでほしいと思います。
一 実践二例は社会の教科書の本文を使っていること
二 理論編で触れなかった「学校全体を覆っている講義型授業」についてどう語っているか
三 学校と塾や予備校との関係。それと一読法・三読法との関係
四 なぜ「私の一読法授業は挫折に終わった」のか。その経緯や原因

 国語教材の一読法は理論編で説明しました。その中で「社会や理科なども同じ読み方をした方がいい」と軽く触れた程度で、「では具体的にどのように読むか」はやはり実践例を使った方が理解しやすいと思って社会科を取り上げました。

 ここでは授業展開を中心に解説します。一見先生向きですが、一読法ならどう疑問をつぶやき、それをどう発展させるか。その点は中高生、一般の方にも参考になると思いますので、ぜひお読み下さい。

 なお、この二例は2017年、国立情報学研究所が開発実施した、基礎的読解力を診断する「読解認知特性診断テスト」中の問題を使わせてもらいました。
 この「読解認知特性診断テスト」というのは(おそらく)今までにない画期的な診断テストだと思います。通常学校の定期テストや入試問題の多くは物事を知っているかどうか、その知識を使って課題を解けるかどうか――が問われています。しかし、この読解診断テストは教科書本文を例としながら《知識を問う》のではなく、その本文が《ちゃんと理解できているかどうか》を問うています。
 以前「多くの先生が生徒は問題文そのものが理解できていないと語っている」ことを紹介しました。それは教員個人の感想に過ぎませんが、公的機関がはじめて「生徒は問題文そのものが理解できているか」を大々的に検証してくれたわけです。

 テストには全国の小学校から社会人まで、合計二万四千人余りが参加しています。
 内訳は小学生1347人、中学生7073人、高校生14083人、高専生198人、大学生1316人、社会人600人。
 翌年問題の一部と分析結果が公開され、「教科書の文章を正しく理解できていない中高生が多数いる」として話題となりました(詳細はネット検索してください)。

 なお、例題1の正答率は「中学生57、高校生72」、例題2の正答率は「中学生62、高校生72」。
 逆に言うと、中学生は約四割、高校生は約三割が誤答したことになります。「中高生の読解力に問題あり」とされた例題です。

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 例題一 次の文を読んで後の問いに答えなさい。

 「幕府は、一六三九年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。」

 問 上記の文が表す内容と以下の文が表す内容は同じか。「同じである」「異なる」 のうちから答えなさい。

 「一六三九年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた。」
  (1)同じである   (2)異なる
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 例題は歴史的事実の中身を問うのではなく、例文が《理解できているかどうか》を聞いています。主述の対応、能動と受身を把握しているか。つまり、沿岸の警備を命じたのは幕府か大名か。
 もちろん答えは「幕府が大名に命じた」のであり、大名から見れば「幕府に命じられ」た。ところが、後者の文は「幕府が大名から命じられた」となっているので誤り。よって、正解は「(2)異なる」です。
 これを中高校生三割から四割が不正解だというから驚きです。

 情報学研究所は誤答の原因として「生徒が文構造を理解していない」ことをあげています。これについてはいずれ考察することにして生徒と二十数年付き合った私の経験から一つ指摘しておきたいことがあります。

 それはこの例題について、生徒が「何を問われているか理解できなかった」可能性が高いということです。社会科(日本史)の問題として難しく考えたかもしれません。
 たとえば、例文を生徒に示して疑問を書かせると「沿岸って何? 一六三九年って何時代?」とつぶやく生徒がいると思います。それくらい常識だと思う先生や大人からすると、「そんなことも知らないのか」と驚きあきれることでしょう。特に後者は中学生ならあり得ても、高校生なら「それくらい知って当然」と思います。
 ところが、基礎的知識が少ないというか、ほとんどない生徒は高校の段階でもかなりいます。「一六三九年」と「江戸時代」がすぐつながったか、疑わしいところです。

 もちろんこの例題にとって「一六三九年は江戸時代」とわかる必要はありません。しかし、「どの時代かわからないので、自分には難しい問題だ」と感じた生徒がいるかもしれません。
 例題は史実の内容を問うているのではなく、例文を理解したかどうか尋ねているだけ。なのに、生徒は問題の意味を理解しないまま、さあっと読んで「難しいなあ」と思い、丁半博打のように、勘で(1)か(2)と答えて間違えた可能性があります。
 となると、実のところ正解者六、七割の中にも、単に確率2分の1の賭けに勝っただけの生徒がいるかもしれず、真の誤答率はもっと高いかもしれません。

 どちらにせよ、私には誤答した生徒(と丁半博打に勝った正答者)が問題文をさあっと目で追って答えただけ――つまり、この結果は三読法「通読」の癖から生じた現象ではないかと考えます。だからこそ一読目からじっくり読まねばならないのです。

 では、一読法ならこの例題をどう読み、どう解くか、やってみます。

 まず最初の文に[A]、後の文に[B]と記号を付けます([1]や[2]でも構わないけれど、設問部にない記号がいい)。
 そして、Aについて重要と思えるところに傍線を引き、感じたこと、考えたこと、疑問などをつぶやきます

A 「幕府は、一六三九年ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備命じた。」
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・「沿岸」って何? 一六三九年って何時代だ? 戦国時代かな?
・幕府って一六三九年とあるから江戸時代だな。徳川幕府だ。将軍は誰? 家康はもういないだろう。二代か三代か?
・Aの登場人物は幕府(将軍)とポルトガル人と大名だ。
・幕府はなぜポルトガル人を追放したのだろう、キリスト教と関係あるかな?
・幕府は大名に沿岸の警備を命じたんだ。なぜ? もしかしたら鎖国にしたからか?
・沿岸って日本の周囲は海ばかりだから、内陸の方が少ない。じゃあ、内陸の大名には何を命令したんだろう?
・沿岸の警備を命じられた大名とか家臣の武士は大変だったろうな。刀と槍、弓矢に鉄砲。大砲なんかも備えたのだろうか。見回り用の船を造ったかもしれない。その費用は幕府が出してくれたんだろうか?
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 これらのつぶやき、もちろん例題の試験用紙に書き込むわけではありません。また、中学生、高校生など各自の知識量によってつぶやくことができる感想もあれば、ひたすら疑問だらけになることもあるでしょう。大切なことは《とにかくつぶやくこと・疑問を持って読むこと》です。だから[?]だらけになって構いません。

 それによって、この一文を集中して読むことになるし、頭の中で整理したり、広がりを持つ事実として認識される。簡単に言うと、単なる一文が頭の中で大きなイメージをもってふくらむのです。

 例題はAとBが同じかどうか問う問題です。そこでBの文を読みます。
 こちらも当然傍線を引いて感想や疑問をつぶやきます。

B 「一六三九年ポルトガル人は追放され幕府大名から沿岸の警備命じられた。」

 Aの文でいろいろつぶやいていれば、「あれっ妙だぞ?」と言えるはずです。
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・一六三九年、Aと同じ。江戸時代だ。
・登場人物もAと同じ、幕府・ポルトガル人、大名だ。
・ポルトガル人は追放されたって誰から? 当然幕府からだ。合っている。
・幕府は大名から沿岸の警備を命じられた?
 なにっ、沿岸の警備を命じられたのは大名だ! 幕府が大名に命じたんだ。アホじゃないのか。そもそも最上位の将軍が部下である大名から命令されるわけがない。Bの文は間違ったことを言っている! 正しくは「大名は幕府から沿岸の警備を命じられた」じゃないか……。
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 とつぶやいていけば、正解の[(2)異なる]にたどりつきます。

 ここで読者の批判的つぶやきが聞こえます。
例題の解き方・読み方は別に一読法などと言わなくても、入試問題などを解く際、ごく普通にやっていることではないか」と。
 さらに「例題を誤答した生徒は受験テクニックを知らなかったからだろう。学校の授業はそうしたテクニックを教えない。だから、塾や予備校に行く必要があるんだ」とつぶやいた人がいるかもしれません。

 確かにこの例題に関しては、記号と傍線によってポイントを《見える化》すれば、正解に達します。だから、別に疑問や感想をつぶやく必要はない。誤答した生徒は単に解法テクニックを知らなかっただけ――そう言えるかもしれません。
 しかし、例文を実際の授業において実践する場合、三読法と一読法ではとても大きな違いが生まれます。それは講義型授業と一読法授業の違いとして現れます

 以下三読法に基づく講義型授業と一読法授業の違いを書きます。

 例 「幕府は、一六三九年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた。」
 ちなみに一六三九年というのは「第五次鎖国令」が発令された年です。

○ 三読法授業……本文をさあっと読んだら、先生が内容を解説。重要な部分には傍線を引かせたりする。時には他資料やプリントによって内容を深め、生徒に質問したりその答えを聞いて(または一切質問することなく)この単元を終える(講義型授業)。

○ 一読法授業……生徒は本文を読みながら、疑問やつぶやきを書き込み、その後それを発表。さらに調べたり話し合ったりした後先生が解説する。

 三読法授業の詳細とその後は以下の通り。
 たとえば、一般的な社会(日本史)の授業では、おそらく鎖国の開始から完成までが書かれたプリントが生徒に配布され(または教科書の当該頁を開き)、それを読んで先生が解説するでしょう。
 まずは一度読む。そして、生徒にちょっと質問して答えさせたり、関連したことがら、エピソードなどを紹介し、黒板にポイントを板書する。生徒は板書をノートに取って授業は終わる。いわば[通読→精読]の二読法です。

 その後生徒は定期試験(または入試)対策として「1639年第五次鎖国令、ポルトガル船入港禁止」として暗記する(このとき教科書を読み直せば、三読法の三度目)。すると試験に出たり出なかったり、入試に出たり出なかったりして大人になるとこんな項目、忘却の彼方に消えてしまう……のではないでしょうか。
 歴史授業における項目暗記主義、年号暗記主義の完成です。忘れたらそれっきり。いわんや、大学で日本史を専門に学ばない限り、「江戸時代の鎖国について何か考えたり、感じたりしたことがありますか」と訊かれて「これこれです」と答えられる人はまずいないと思います。

 我々は大人になっても794年や1192年のことは「鳴くよウグイス平安遷都」・「いい国つくろう頼朝さん」で覚えています。もしも1639年のことを言えるとしたら、相当記憶力がいいか専門家でしょう。江戸時代の「鎖国」は重要事項として記憶に残るけれど、「五回目の鎖国令とその年号」はそれほど重要と思えません。つまり、テストの前しか覚えていません。
 ちなみにネット検索したら、語呂合わせは「人むさくるしい鎖国令」とか「イチローサンキュー鎖国完成」というのがありました。どちらもイマイチながら、採用するなら後者でしょうか。

 では、一読法によって生徒が教科書やノートに、《疑問・つぶやき》を書き込む場合、その後の授業はどう展開されるのでしょう。

 【 一読法授業の詳細とその後

 先生は生徒が発表したつぶやきを、まとめながら板書します。たとえば、以下のように。
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 ↓?    ↓何時代?        なぜ?
幕府は、一六三九年ポルトガル人を追放し、
      ↓?      なぜ?
大名には沿岸警備を命じた。」

・徳川幕府か? 将軍は?
・幕府(将軍)・ポルトガル人・沿岸の大名
・なぜポルトガル人を追放したのか? 他の外国人はどうだったのか?
・キリスト教と関係あるか?
・大名に沿岸の警備? 鎖国か?
・内陸の大名に対する指示は?
・海岸に大砲は? 費用は幕府が持ったのか? 諸藩か?
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 その後先生の解説の前に、生徒自身がネットや事典類で調べたりして「時代は江戸時代、徳川幕府」とか「鎖国の歴史や事実」をノートに書き込んでいきます。「沿岸」の意味、一六三九年が何時代かわからなかった生徒も当然調べて答えを得るでしょう。
 生徒が調べてもわからないところは先生の出番であり、もちろん先生の全般的解説も聞きます。
 このようにして例文の授業を終えるでしょう。

 ここでまた読者の批判的つぶやきが聞こえてきます。
 「最初の先生中心の授業と大差ないではないか」と。

 これに対しては以下の記述を読めば、歴然とした違いがあることおわかりいただけると思います。

 これらの疑問・感想のつぶやきはもちろん私が生徒の立場を想定してつぶやきました。私は江戸時代の知識について現役中高生より少々多く持っていると自負しています。それでも今回これらの作業を経てネット事典ウィキペディアで「鎖国」を検索してみました。つぶやきの答えを探究したわけです。

 それによって「鎖国」体制は徳川二代将軍秀忠から始まり、三代家光によって完成されたこと、計五回の鎖国令が出され(五回も発令されたんだ!)、一六三九年の「ポルトガル人追放」によって鎖国が完成したこと(この年以降鎖国が始まったのか!)を知りました。( )内は私がつぶやいた驚きの言葉です。
 最後に「なるほど。だから一六三九年って大切な年なんだ」とつぶやきました。一回の鎖国令では効果がなかった。だから、二度、三度と出され、それでも効果がないので、四度、五度。五次が最後の鎖国令だから、これでようやく鎖国体制が完成したことになります。

 また、余計なクイズ的知識ながら「鎖国と言いつつ、長崎出島でオランダと交易していた」ことは有名です。さらに「朝鮮国、明から清にかわった中国ともずっと交易していた」との知識を得たし、交易相手国として「琉球(沖縄)」とあるのを見て「そうか。沖縄って江戸時代は独立国なんだ!」とつぶやいたことです。
 五回も鎖国令が出されたのは「日本側の問題か相手国の問題だったのだろうか」と思うし、「考えてみれば、オランダとは交易したのに、なぜポルトガル人追放なんだ?」とか、「三カ国と交易して鎖国と呼べるのだろうか」との疑問も芽生えます。

 さらに、これを調べているとき「ええっ!」と叫ぶ驚愕の事実を発見しました。翌一六四〇年のところに、
マカオから通商再開依頼のためポルトガル船来航。徳川幕府、使者六十一名を処刑」とあったのです。
 これは今回初めて知った歴史的事実、衝撃の史実です。

 私は修学旅行で生徒と共に長崎に行ったことがあるし、江戸幕府のキリシタン弾圧のこともある程度知っています。しかし、幕府が通商再開を求める使節団六十一名を皆殺しにしたとは驚きの事実です。
 ここでも「使節団を処刑するとは……なんてむちゃくちゃな。一体何があったんだろう」とつぶやいたことです。

 幕府はどうしてポルトガルに対してそこまでひどい対応を取ったのか、もう一度一六三九年以前の解説を読み直しました。
 恥ずかしながら、一読法を推奨しているのに、私は鎖国について説明する文章をさあっと読んでいました。ところが、「なんだこれは。ひどい話だ」と感じる箇所に出くわしたので、もう一度集中して読み直したという流れ(つまり、「おやっ?」と思ったので、部分における二度読み開始)です。

 すると、一六二〇年のところに「平山常陳事件。英蘭が協力してポルトガルの交易を妨害し、元和の大殉教に繋がる」とか、「一六三六年《第四次鎖国令》。貿易に関係のないポルトガル人とその妻子(日本人との混血児含む)二八七人をマカオへ追放」などの記述が目にとまり、さらに知識が広がりました
 この部分も検索を続けると、信長から秀吉、家康に至るポルトガル、特にキリスト教との関係、当初は信仰の自由を認めていたのに、徐々に変化するなど新たな知識を得たし、さらなる疑問も湧きましたが、割愛します。

 おわかりでしょうか。疑問とつぶやきから自身で調べて答えを探す一読法だから、「幕府は、一六三九年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた」の一文がこれだけの広がりと深みを持つのです。授業でこれを実践すれば、先生の解説も含めて相当内容の濃い授業が成立するはずです。

 そして、大切なことは以下の点です。
 私の頭の中には鎖国の開始時、江戸幕府の暴挙として「一六四〇年ポルトガル使節団皆殺し」の事実が強く印象づけられました。同時に他の項目を調べて読むことで、世界征服をもくろむヨーロッパ列強と小国日本との関係について「感想を書け」と言われれば、かなり書ける事柄を知ることができました。

 このように生徒の感想や疑問に答える形で授業を展開させるのが一読総合法に基づく授業です。これは自ら疑問を持ち、自ら調べて答えを得る授業であり、その中で何事かを感じ考え、ときには「どう思う?」と生徒同士話し合える授業となります。
 先生が一方的に解説し、時折質問して答えさせるだけの講義型授業とは似て非なる授業が成立するのです。

 講義型授業は所詮受け身です。どんなに「集中して聞きなさい」と言っても、ぼーっと聞き流していることが多く、体育や昼食後の授業は眠気に勝てません。
 一方、一読法授業なら手を動かし、身体を動かし、自分やクラスが出した疑問を調べる能動型授業です。ゆえに集中するし眠気も飛びます。答えが見つかれば「わかった!」の声が飛び交い、それを発表すれば「違うんじゃないの」といった反論が出ることもあります。授業が活性化すること間違いありません。
 ただ、時間はかかると思います。丸々一時間かそれ以上使うかもしれません。

 時間に関しては「鎖国の開始から完成」までのプリントや教科書のある頁全体を読みながら「疑問・つぶやきを書き込もう」とすると、かなりの時間が必要です。
 よって、短縮を意識するなら、例題のようにある年、ある一文だけを板書して疑問・つぶやきをノートに書く方法があります。その後プリントや教科書を読めば、多くの答えが得られるでしょう。一読法では見出した答えに対して新たな疑問が浮上し、別のつぶやきも出てきます。当然それらの疑問も教科書やプリント、ノートに書き込みます。

 時間が許せばその先も調べたいところですが、授業はそこまでとして、後は先生の解説に留めれば、時間短縮が可能です。最後に先生が「この先もっと関心があるなら、帰宅後調べてごらん」と言えば終わりにできるでしょう。
 江戸幕府はなぜ「一六四〇年ポルトガル使節団を皆殺しにした」のか。その答えは先生が解説してもいいし、生徒に調べさせてもいいと思います。
 間違いなく言えることは、この授業が生徒の知的好奇心を刺激することです。おそらく目を輝かせて「疑問の答えを得よう」と真剣になるだろうし、「もっと調べてみたい」気持ちになると思います。

 一般的な日本史授業は鎖国の単元を終えると、江戸時代の史実について学び、それを終えてから江戸末期の「開国」、そして「明治維新」に至るでしょう。
 しかし、一読法なら鎖国から一気に開国へとつながります。というのはさらなるつぶやきとして「これが鎖国なら、江戸時代末にはどうして鎖国を続けられなかったのだろう」との疑問が芽生えるからです。鎖国→開国という授業は一読法授業なら大いにあり得る展開です。

 なんにせよ、先生がちょっと質問して生徒が答え、あとは先生が鎖国の歴史を解説し、生徒は板書をノートに写すだけの授業――三読法的講義型授業か。
 あるいは、生徒が発した疑問やつぶやきを全体のものとして調べ、次から次に浮かぶ疑問やつぶやきも調べる。ときには「なぜ江戸幕府はポルトガルをそれほどまでに敵視したのか」に絞って調べ、調査結果を発表して生徒間で意見を闘わせる。
 こうした活動によって鎖国についての例文は単なる年号・項目暗記で終わることなく、はるかに深い、活きた知識として生徒に蓄えられるのではないでしょうか。これが一読法授業であり、生徒主体の授業です。

 ちなみに、生徒がいろいろ調べて発表したり、意見を交わす授業は国語科では「単元学習」と呼ばれ、最近は「アクティブ・ラーニング」として知られています。 大学ではゼミや演習など、学生自ら調べて発表する形で実施されています。
 私はこの基本として最初から疑問・つぶやきを持って読む一読法が最適だと考えています。さあっと通読して二度読みの段階で「疑問・感想を述べよう」と指導するのではなく、「一度目の読みから疑問と感想を述べる」方が新鮮だし、知的好奇心が刺激されるので、調べたり考えるエネルギーとなるからです。


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 最後まで読んでいただきありがとうございました。
後記:今号の「実践編目次」は前号と変わっています。(二)と(三)の間に「誤答率四割の原因を探る」を入れました。下書きでは(三)社会(文化史)の後半にあった部分で、あまりに長くなったので独立させました。気付いた方は正しく一読法完全実践者です。初段を献呈いたします。
 今回は罠でも落とし穴でもなく私の構想不足によるミスです。失礼いたしました。m(_ _)m
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「一読法を学べ」  第 12 へ (6月28日発行)

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