ゆうさんごちゃまぜHP「久保はてな作品集」 2025年12月10日(水)第11号
「構想を立てる」とはどういうことか
今号は久保はてな君の作品を離れて小説における「構想」について語っておこうと思います。
はてな君の連作小説「白亜の王子」がこの件について解説する好例になっているからです。
そこで久しぶりに一読法の復習(^_^)。
前号末尾「冒頭にしては『長すぎる』と部員からクレームが出ていました。しかし、これは彼(久保はてな君)の戦略だったようです」とあります。
ここを読んだとき、「おやー戦略って何だ?」とつぶやいたでしょうか。
後記にこの説明はありません。ということは「次号で語られるな」と推理できる。
その場でちょっと考えてみてもいいけれど、たぶん全く思いつかないでしょう。
しかし、ヒントはすでに出ている。これこそ読解力。
読みの力のない人は〈これ〉に気付かない(言い過ぎ?(^.^)。
他部員から「長すぎるとクレームがあった」との一文。
普通あそこまで長くしない。ということは私――いや、はてな君はわざと長くしたということです。それこそ連作小説の「戦略」。
よって、「戦略とは何か」の答えは「冒頭を長くしたこと」となります。
このように読み解いていれば、「次回は冒頭を長くした理由も語られるんだな」と予想できる。
ここまで推理できて一読法有段者(^_^)。
さて、読者各位もそろそろお気づきではないかと思います。
なぜ文芸部員の作品を御影祐のホームページ、メルマガで公開するのか。
そもそも「久保はてな」って誰か。逆転すれば「はてな・ぼく」(ぼくは誰?)
おそらく最初のころは「15、6歳の高校生がこんな文章を書けるのか」と異和感を覚え、そのうち「久保はてなって御影祐じゃないのか」と疑惑が膨らんだのではないでしょうか。
記憶に残っているなら、「顧問の私も課題のいくつかを書いた」が参考になります。
実は「いくつか」どころか、四回目の課題「顔を描く」以後、私も全て書きました。
そして、合評プリントに何食わぬ顔で挿入させた。合評は作者名を伏せるので、そこに私の作品も紛れ込ませたわけです。
提出作品が部員の数より一つ多いので、もちろん彼らはすぐに気づきました。
私はできるだけ高校生の感性と文体を使って書き上げたので、彼らは意外に顧問の作とわからず、作者を明かすと「先生とは思えなかった」とよく言われたものです。
なぜそのようなことをしたのか。また、あのときからほぼ30年経って今なぜ当時の久保はてな作品を公開するのか。この理由はいずれ明かします。
一つの理由は「もしも読者が小説など創作をやってみたい」と思われるなら、その書き方を伝授したいと考えたから。それで伏線や私小説について一節設けました。
今回はフィクションを書く際絶対必要な「構想」について語ります。
まだ連作小説「白亜の王子」をお読みでなければ、終えてから本稿に進むことをお勧めします。
以下PDFファイルです。
久保はてなと10人の部員による連作小説 『白亜の王子』
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久保はてな君の作品「白亜の王子」によって「構想を立てて小説を書く」とはどういうことか――がおわかりになる(なった?)と思います。
これは連作小説です。
顧問を含めて計11人がこの作品に関わり、三日かけて次から次に書き継いでいきました。
ところが、読者は読み終えて不思議の感にとらわれたかもしれません。
流れが整っている(と感じたはず)。まるで一人が書いたかのように話がつながって妙な方に脱線していないと。
一人一時間半で続きを書くことにしたので、午前中に3時間、午後3時間、合わせて一日6時間の執筆。「はい次、はい次」と回しました。「せっかく乗って来たのに」との声が出ても1時間半で容赦なくぶち切る(^_^;)。
次の担当者が「おい。『そして』で切れているけど、何書こうとしたんだ」と
言っても答えてはいけない。
正午前フロッピーを回収して昼食休憩。午後1時半に再開して夕方またフロッピーを回収したので、部員は自作がどう展開したか一切見られません。
3日目の午後、自作フロッピーが自分のところに回って来てようやく全部を眺め、ラストを書くことになります。
結果、他の部員による連作小説はいかにも違う人が書いたとわかるような展開を見せたり、冒頭を書いた作者が「どうしてこうなるんだ」と嘆くような作品ができあがっていました。
この事態が予想されたので、私は「はちゃめちゃ系学校小説」・「タイムトリップ系SF小説」、「ゲーム系冒険小説」・「純情コミック系恋愛小説」など題材を設定したわけです。
いわゆるエンタメ系であり、ライトノベル。昔で言うなら大衆小説。これなら部員も書きやすいのではと思いました。それでも途中で脱線する作品が相次いだ。
この違いは冒頭「1」をどう書いたか――にあります。
はてな君が担当したのは「ゲーム系冒険小説」。冒険は大きなテーマ。
彼の場合は「1」に物語の発端から中間、予想される結末まで(全てと言っていいほど)書き込んでいる。
まず、はてな君が構想した小説の3要素が以下
1 いつ =古代(恐竜の時代)
2 どこで=地球、アトラン(ティス)大陸
3 誰が =主人公白亜の王子カイ、重要な脇役トーラス 他
そして、最初からある秘密が暴露されています。
それは地球で暮らす彼らが他の星から宇宙船に乗ってやって来たこと。その後五部族に分かれ、原始文明をスタートさせて600年が経過していること。
今気候変動と隕石の接近、衝突によって大陸は海中に沈む危機に陥っており、地下に眠る巨大宇宙船に乗って再び宇宙に飛び立たねばならない状況にあること。
だが、宇宙船を動かすには5つのカギ(黄金の鳥像)が必要で、それは「鳥・獣・虫・水・雷」の名を持つ五部族が持っていること。これらが明かされます。
この五部族、以下のようにかなり詳しく説明されています。
「中央が我がレイヴァン城、鳥族の聖地じゃ。北に獣族、東が虫族。虫族は獣族の傘下と言っていい。最も野蛮で攻撃的なのはその獣族じゃ。そして、西の湿地帯は水族のエリア。これは友好的なので言うことを信じてくれるじゃろう。南の雷が荒れ狂う地が……(略)雷族の地。これも攻撃的じゃが説得次第かもしれぬ」として五部族の状況、性格まで描かれる。
言い換えれば(この説明に合うように描きなさいと)指定している。
また、「それぞれの境界線辺りには宿場町がある。交易も行われているはずじゃ。お前は初めて訪れることになる。アウトローとのいざこざや妙な誘惑が多いやもしれぬ。任務を忘れるでないぞ」と宿場町で何かが起こることも指定される。
こうなると、後を書き継ぐ人は「これを描きなさい」と言われているようなものです。
さらに明かさなくてもいい(^.^)秘密まで伏線として書かれます。王子カイは一人っ子ではなく、どこかに父と母、兄と妹がいると。
ここらへん飛翼機は『風の谷のナウシカ』を思い起こさせるし、家族の秘密はSFの名作『スターウォーズ』のパクリを感じさせます(^.^)。
それは(あくまで小説製作の練習だから)愛嬌としても、部員は「1」を読めば、「この流れから逸れるわけにいかない」と思うでしょう。
つまり、王子カイはトーラスとともに冒険に乗り出す。そして、様々な危険とトラブルを乗り超え、四つの部族から黄金の鳥像(ゴールドバード)を取り戻す。最後は無事宇宙船に乗って地球脱出に成功する。ストーリーは必ずそうなります。
結末も「めでたし、めでたし」で終わる。ある意味冒険小説や映画のお約束であり典型です。
本格的な冒険小説を書こうと思うなら、「1」のいくつかは書かなくて構わない。と言うよりむしろ書かないことが多い。とにかく「他部族のところにゴールドバードを取りに行け」としていろいろな秘密は徐々にわかるような流れとするでしょう。
たとえば、乳母のトロテは最初と結末しか登場しないけれど、途中でカイと再会させ、家族の秘密を語る場面を描くとか。「乳母」としたのはそれを意識しています。
あの『スターウォーズ』でもレイア姫がルークの妹らしいとわかるのはずっと後になってからであり、ダースベイダーがルークの父とわかるのはさらに後。普通重大な秘密は最初から明かしません。
しかし、今回は連作小説の執筆。最初に全体の流れや秘密、伏線まで書いておかないと、作品はどんどん脱線する(に違いない)。
それを思ったから、私――いや、はてな君は「1」にかなり全体像を書き込んだのです。
これが連作小説の「戦略」でした。
実作の流れを紹介すると、はてな君に続いて「2」の冒頭を担当したのが部長のK君。彼はすでに中学のころからライトノベルの小説を書いており、さすがの展開を描いてくれました。
王子カイに直ちに危機をもたらす。レイヴァン城は獣族と虫族の悪者二人(ビースト・グランとインセクト・ビビット――これは彼の命名)の襲撃を受ける。衛兵や近衛兵、トーラスまで殺されてしまう。
次の担当者はカイとグラン、ビビットの戦いを詳しく描き、カイの「なぜ自分が選ばれたのか、この任務は自分に果たせるだろうか」との悩みを深める。飛翼機が全て破壊され、パニックに陥ったカイは城から逃げ出す。
3人目はカイが宿場町の酒場で飲んだくれ、女給に誘惑されてだらだら過ごす様子を描いた。長老から「妙な誘惑が多いやもしれぬ。任務を忘れるでないぞ」と言われながら、そうなってしまう人間の弱さを表現した。
4人目の担当者はちょっと迷ったと思います。王子カイをさらに堕落させる方向に描くか。それとも立ち直らせ、再び冒険に乗り出すと描くか。
彼は後者を選択し、ここまでの難題を一気に解決してくれました。
それは首を斬り落とされて死んだはずのトーラスを生き返らせること。
しかも、トーラスはひそかにカイを見守り、近衛兵らを殺したビースト・グランをやっつけると書き継いだのです。
なぜトーラスは生き返ったのか。それはトーラスが「超文明の最高傑作、再生可能の死なないアンドロイド」と説明しました。トーラスが殺されること、生き返ることは「1」に一切ありません。私は「お見事!」と称賛しました。
もちろんかなりご都合主義的。しかし、所詮「ゲーム系冒険小説」。それに「超文明」だから何でも可能(^.^)。脱線に見えるけれど、大いにあり得る展開として感心したわけです。
おそらく「2」の冒頭を担当したK君も「この後誰かトーラスを生き返らせて」との気持ちで「トーラス死す」を描いたのでしょう。阿吽の呼吸と言うか見事な連係プレーです。
その後カイとトーラスは水族や雷族の住む地に行って「何か」が起こり、なぜか飛翼機も復活し、父と母、兄と妹のことも明らかとなり、二人が難問を巧みに解決する様子が描かれます。
飛翼機を全滅させた担当者も「誰かどこかで復活させて」と思ったことは明らかで、後を担当した部員が呼応して比翼機に乗る少女を登場させた。
飛翼機を操れるのは王家に連なる者だから、彼女はカイの妹らしいとわかる。伏線をしっかり回収して発展させています。
ただ、なぜ飛翼機が水の都にあるのか、その答えはない。最後に全体を推敲したはてな君も処理し忘れたようです(^.^)。
水族の城でニセのゴールドバードを出現させた点も面白い展開として感心しました。どうやら雷族のところに4体のゴールドバードが集まっており、カイとトーラスは雷族の住む地に飛ぶ。もう大団円に向かっています。
確かここらで私に回って来たと思います(^_^)。私はなぜ4体のゴールドバードが雷族に集まったか、その理由を考えねばならなかった。そして、雷族の洞窟で最後の危機を描き、母の登場、家族の秘密が明らかになり、無事地球を脱出する……と描いたわけです。
結局、部員はがちがちのあらすじから離れることができない、できなかった。
これこそ「構想」です。この構想に従ってあとは書くだけ。
部員に確認しなかったけれど、彼らは展開や執筆にあまり悩まなかったのではないか。あらすじが明確だから、そのとおりに書く、書いた。脱線のしようがないのです。
執筆において「いかに表現するか」は絵画に似ています。油絵は素描・デッサンからスタートして全体に色をつけ、部分を細かく色づけしていく。
小説(特にフィクション)も構想を立てたら、大まかな流れを書き、細部を書きつないでいく。実はフィクションの執筆とは一人で連作小説を書くようなものなのです。
さらに、フィクションは分量(枚数)の調節もさほど難しくない。途中「5年、10年が経過した」などとあっさり書けるし、戦闘場面など事態を詳しく描写するところと「この戦いは何々の勝利に終わった」と2、3行に要約することもできる。
50枚の作品にしたければそのようにまとめ、100枚の作品に増やしたければ部分を細かく、詳しく描けばいい。
はてな君の「白亜の王子」で獣族・虫族は後半登場せず、彼らのゴールドバードは雷族のところにあるとされます。かくして王子カイは一気に5体の鳥像を確保できた。作品を短くするうまいやり方です。
読者がフィクションを書こうと思うなら、何はさておき《構想》をしっかり立てること。
これは家を建てるときの骨組みに似ています。これが堅牢でないと家はたやすく壊れる。小説も構想がしっかりしていれば、「こんなに簡単に書けるのか」と感じるでしょう。伏線を織り込むことも容易い。
これを逆に言うと、構想がいいかげんなまま書き始めると、前後脈絡のない、伏線がなく突然重要な人物や武器が後で登場する羽目になる。やがて執筆に行き詰ること間違いありません。
小説執筆において「構想を立てる」とはかくも大切な作業なのです。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
後記:当時の文芸部員が本稿を読んでいるなら、あのころ「構想の立て方について説明していなかったな」と謝りたい気持ちです(^_^;)。
今回「白亜の王子」は公開しないつもりでした。厳密な意味で久保はてな君の作品ではないから。しかし、久しぶりに再読して「そうか。連作小説の戦略は構想を立てることの大切さにつながっていたのか」と気づき、公開することに決めました。
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