ゆうさんごちゃまぜHP「久保はてな作品集」 2026年01月21日(水)第17号
『 久保はてな作品集 』17号 2年最終課題「変身譚―花びらかまきり―」
(花びらカマキリのビデオを参考に変身譚をつくる)
「はてなの遠い世界へ――マーヤの変身譚」続き
前号を読み終えて次のようにつぶやいた方がいらっしゃるかもしれません。
「あれっ、『はてなの遠い世界へ』のPDFファイルがない。忘れたのか」と。
素晴らしい(^_^)。優秀な一読法実践者ですね。
確かにこれまでメルマガに掲載し切れない長編は「PDFファイル」につながるURLが書かれていました。
ところが、前号はそれがなかった。後記に言い訳もなかった。
さすがに「なぜ?」と思ったとしても、理由を推理することはできなかったでしょう。
本来前16号の配信は先週14日(水)の予定でした。それが19日(月)に遅延したことも小さな異変として感じたかどうか。これはさすがにない?(^.^)
実は新年に入ってかなり深刻な(執筆上の)トラブルが発生しており、それをどう切り抜けるか。ここ10日ほど呻吟していたのです。
結果メルマガが予定の14日に発行できず、なおかつ『はてなの遠い世界へ』のPDFファイルさえ掲載できなかった。生みの苦しみというか、ラストを前にしてちょっとしたピンチに陥っていました(^_^;)。
苦しんでいたのは「あらすじ作成」です。なかなかまとめきれず、そのうち書く気さえ喪失したので参りました。
数日前やっとこの問題が解決しました。
で、「この間の経緯をぜひ読者に伝えたい」と思って本節は「前号の補足と復習」と題し、以下のような書き出しで配信しようと考えました。
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『 久保はてな作品集 』17号
前号補足と復習――やる気を失ったときの対処法(^_^;)
早速の余談で恐縮ながら1月7日(水曜)の夜、久しぶりに『相棒24』第11話を見ました。
近年夕方の再放送は欠かさずと言っていいくらい見ているけれど、午後9時の初出は逆にほぼ見なくなりました。二度寝症候群のせいでその時間は眠っていることが多くなったからです。
もう一つ、『相棒』は近年暴力的傾向甚だしく、私はそーいうのがあまり好きでないこと。昔は太田愛さんの脚本など(殺人であっても)文学性とロマンがありました。
しかし、この日だけは予告編が「面白そうだから」起きて見ることにしました、はい(^_^;)。(以下略)
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この17号(下書き)は先週から数日で書き上げました。これがいつもの「悪いくせ」であまりに長くなり、読者をうんざりさせること必至(^_^;)。しかし、一読法の大切さを訴える好例となったので、ぜひ配信したい。
かくして「これは久保はてな作品集が終わったら、付録として配信しよう」と決めました。
……などと書いても、読者各位にとってほとんど意味不明の述懐かと思われます。
ここは「要するに御影祐の脱線報告だな」と思って前号『はてなの遠い世界へ』の続きとして本稿をお読みください。
前号前置きのラストを再掲します(全8節を9節に改稿)。
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物語は全9節。1〜3はこれまでの流れを受けた「はてなの私小説」風作品。
4から本格的な変身譚が開始されます。そこはSF作品であり、ゲーム系冒険小説であり、謎解きの推理小説風にもなっています。
よって、課題に応えた部分は第4節以降なので、読者は1〜3を省略か、さーっと読まれて結構です。[ここは「なにっ?」とつぶやいてほしいところ(^.^)]
ただ、3節までに多くの伏線をちりばめています。
これに気付くのは相当難しいと思います。挑戦してみようと思う方はじっくりお読みください。 [これぞ一読法実践!]
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さて、全体のあらすじが書けず呻吟したものの、解決法は「あらすじをやめる」となりました。
なので、過去の長編にあった「あらすじ」は今回ありません。
この結論に至った心情を表現すると、「そうか。苦しんだけど、あらすじやめればいいんだ」であり、「あらすじやめていいんだ」と気付いたことです。
「おいおい。深刻なトラブルとかピンチとか、あらすじ作成のやる気を喪失したなどと大仰なこと書いておいて、結論は『あらすじやめる』だって?」
読者は「何それ?」と呆れたかも(^.^)。でも、私にとってこれが最良の解決法でした。
この経緯を推理できる方はきっと杉下右京を超える名探偵だと思います。
挑戦してみますか。本号にかなりヒントがあります。
そして「はてなの遠い世界へ」を最後まで読めば、推理できるかもしれません。
この間の「なぜ?」が以下。
・メルマガ執筆が行き詰り、PDFファイルを掲載できなかったのは「あらすじ作成」が滞ったためで、書く意欲さえ失われた。それはなぜか?
・この解決法として「あらすじ」掲載をやめることにした。この結論に至った経緯は?
久保はてな「はてなの遠い世界へ――マーヤの変身譚」
なお、「はてなの遠い世界へ」第4節の紹介ですが、3節末尾からスタートします。
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*********************「久保はてな作品集」 ***************************
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3節末尾〜
(「はてな」は出かけようとする父と玄関で口論を交わす。父は出かけて……)
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その後ぼくは部屋に閉じこもった。
父さんの言葉がちょっとショックだった。「好きなように生きていい、干渉しないようにしよう」と言った。それが父さんの本音なのか。ぼくは家族だからいろいろ心配し合うべきじゃないか、と思う。ところが、父さんはそれを干渉という。
のん子のママも夏休みにのん子が過食症でひどい状態になったとき、何を食べるかは彼女の自由だと言った。しかし、それは自由というより子どもに関心がないだけじゃないのか。
それに父さんはぼくより兄貴に期待している。兄貴がやることにはいろいろうるさいけど、ぼくのことは無関心て感じだ。小さい頃から何となくそんな風に感じていた。
ぼくは父さんのことも母さんのことも、家のことなんかどうでもいいと思った。ぼくはぼくのやりたいことをやろうと。
それからパソコンを起動した。何か小説を書きたい気分だったが、まだ次の課題が発表されていない。以前書いた小説の誤字脱字を直すことにした。文化祭から修学旅行にかけてのフロッピーと連作小説のフロッピー。フロッピーは二枚あった。
ぼくは一太郎を立ち上げ、修学旅行合評後に返却されたフロッピーを開いた。
フロッピーには自分の作品ファイルが三つ入っている。ところが開いてみると、それ以外に「梗概一・二」という見知らぬファイルがあった。
ぼくは「?」と思った。そんなファイルを作った記憶がない。
何だろうと思ってダブルクリックした。先生のファイルが誤って入ったのかもしれない。
すると、パスワード書き込み画面が現れた。やはり堺羽根先生のファイルのようだ。大切なものだったらパスワードぐらいつける。
ダメだろうと思いつつ、パスワードを打たずに「OK」ボタンを押してみた。すると意外にも接続音がしてファイルが開き始めた。パスワードを設定していなかったのかもしれない。
すぐに「[一]梗概 ヒロシマへの道――さみしさ二人旅」と題された梗概が画面一杯に広がった。
作者名「サカイバネ」とある。先生の(とても単純な)ペンネームだ。やはり先生が書いた梗概のようだ。たぶん何かの手違いでぼくのフロッピーにコピーされたんだ。
悪いと思いつつ興味津々で読み始めた。読み終えるころには眠気が覚めてしまった。
そして、画面を下にスクロールして「[二]続編梗概 はてな遠い世界へ(仮題)」を読んだとき、ぼくは大袈裟でなく頭をハンマーで殴られたような衝撃を感じた。思いもかけない内容が書かれていたからだ。
ぼくは「修学旅行の出会いも横浜のデートも作られたものだったのか」とつぶやいた。
顔から血の気が引くような気がした。
4
翌日放課後ぼくはマーヤを体育館の裏に呼び出した。昨夜はほとんど一睡もできなかった。それで今日の授業はのきなみ寝たきりって感じだった。隣の男から「お前時々うなされていたぞ」と言われたときはどきっとした。ぼくは病人のような顔をしていたかもしれない。
マーヤは通称「芸術の森」という松林の小道を小走りにやって来た。話が終わったらすぐ帰るつもりなのか、マーヤもカバンを持っていた。
「どうしたのよ? こんなとこに呼び出して」
ぼくはマーヤの顔をじっと見つめた。怖い顔だったのか、マーヤがちょっと後ずさりした。
「マーヤ。ぼくは……消えて行くしかない。ぼくはバーチャルな存在なんだ」
「……?」
マーヤはわけがわからないって顔をした。当然だろう。
ぼくはカバンから昨日のフロッピーを取り出した。表には「文芸部提出FD 久保はてな」と書かれた紙が貼ってある。
マーヤは手に取って表を見、それから裏返した。裏面には何も書かれていない。依然わけがわからないって顔をしている。当然だ。
ぼくはマーヤの目を見ながら、一言一言叫ばないよう注意しながら言った。
「この、フロッピーの、あるファイルにあったんだ。ぼくは誰かに作られた存在で、そして来年の一月三十一日に消滅するって」
マーヤは大きく目を見開いた。瞳の奥が一瞬青く光ったような気がした。
「何バカなこと言ってるの。どうして君がバーチャルなの! はてなは今私の目の前にいる。私がこの目で見てるじゃない」
「無理だよ。神には逆らえない。神はぼくの最期を来年の一月三十一日って決めたんだ」
「神って何よ。誰のこと? 君は神の声でも聞いたの?」
「堺羽根先生だよ。堺羽根先生がぼくの死を来年の一月三十一日にしたんだ」
マーヤは一瞬ぽかんとしてそれから顔をゆがめるように大笑いした。
向こう向きになったり腹を抱えたり、そして、笑いながらぼくにフロッピーを返した。
ぼくは真面目な顔でフロッピーをポケットに戻した。
マーヤの笑いはなかなか止まらない。涙さえ流して笑っている。確かに悪い冗談としか聞こえないだろう。あの優しい堺羽根先生が人の死を決めるなんて誰が信じよう。
芸術の森を冷たい風が吹き抜ける。グランドから野球部のヘイヘイって声が流れてくる。マーヤの笑い声はいやに大きく響き渡った。
笑いがおさまるのを待ってぼくはポケットから折り畳んだA4用紙を取り出してマーヤに渡した。彼女は涙目を拭ってそれを開くと、「何これ」って感じで読み始めた。
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[一]「ヒロシマへの道―さみしさ二人旅―」梗概 サカイバネ
1998年4月〜8月
文芸部員 久保はてなはY高音楽コースの生徒。
1 二年四月、文化祭冊子テーマ「さみしさ」の開示。マーヤ(一般コースの生徒で文芸部員)
2 帰宅(ママは実家へ 従姉のん子のその後)五月ため息、夜更かし、読書、書き散らされた創作類、ギター、作曲……劣等感。
3 中間テスト、成績急降下。学校では寝てばかり。のん子とのメール。
五月「公園を描く」強制デート(くじびきは偶然はてなとマーヤをペアにする)。はてなのほのかな思い。マーヤとの強制デートを作品にする。
4 のん子の小説。彼女の過食症、ぼくの不安。マーヤも読む。
5 六月「丸木美術館」訪問。前夜父への反発。丸木美術館の原爆の図にショック。S先生「広島へ連れていきたかった」。丸木美術館の作品化。母に手紙を書く。母の返事で「ノーモア・ヒロシマ」を知る。はてな、少しずつ曲をつける。
6 七月期末はさんざん。日本史だけは関心、留年の恐怖。マーヤ突然「夏休みに広島へ行こう」、はてな「……?!」部員に話すがうまくいかない。
7 ひそかな計画、ぼくとマーヤだけ。突然のん子のメール「助けて!」彼女の家へ。冷蔵庫の前で食べまくるのん子。「止めてくれよ」トイレへ、吐いて戻すのん子。酔っぱらって帰って来たのん子の母。「彼女の自由」怒るはてな。のん子は結局入院。
夏休み前はてなとマーヤの広島行きがばれる。S先生が「責任をもって引率する」と。はてなとマーヤ、S先生の三人で八月六日広島に行くことになる。
独身S先生の孤独。「さみしくないの?」「もう慣れた。それに報いはやがてやって来る。ぼくはそれに耐えなきゃならない。親捨ての報いでもあるし」
七月後半バイト、文芸部全員で連作小説をつくる。
8 八月五日夜横浜発、広島へ。マーヤと一緒に夜行特急。S先生も。深夜マーヤに「ノーモアヒロシマ」の楽譜を見せる。マーヤ楽譜を読める。
八月六日広島。平和祈念式典会場。終了後の歌の輪、ギター。マーヤ突然「ノーモアヒロシマ」を歌おうと。はてなが伴奏。S先生「やるじゃないか」
資料館の見学。ショックが少なかったはてな。マーヤはショック。
広島駅でS先生と別れ、はてなとマーヤは帰りの新幹線に乗る。(終)
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マーヤは梗概メモをしばらく読んでいた。顔を上げたのでぼくは言った。
「見てわかるだろ。微妙に違う部分もある。例えばぼくは音楽コースの生徒じゃない。それに成績だってそんなに悪くない。けど、ぼくらはほぼこの梗概通りに行動していたんだ。のん子のことも書いてある。S先生てもちろん堺羽根先生のことだろ?」
マーヤは別に慌てた感じではない。
「でも、それは……私たち文芸部員だし、堺羽根先生は顧問で、広島まで一緒だったから、私たちのことを小説化しようと思って梗概にしていたんじゃないの?
そんなことよくあるじゃない。先生だって文芸部顧問なんだから小説ぐらい書くだろうし。だから、材料を私たち文芸部員から集めたんだわ。この梗概と君が来年一月三十一日に死ぬことと、どんな関係があるの?」
「確かにこれはそういう風に取れる。ではこっちの梗概はどう?」
ぼくは別の紙片をまたポケットから取り出した。本当は見せたくなかった。だが、「梗概T」だけで納得させるのは無理なようだ。
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[二] 続編「はてな、遠い世界へ(仮題)」梗概 サカイバネ
1998年10月〜1999年1月31日
1 九月文化祭。冊子『百八煩悩』製作。十月北海道修学旅行。
はてなマーヤと偶然三度二人だけになる。トラピスチヌ修道院、函館山の夜景、富良野Pホテルの夜明け。はてなマーヤへの思いがつのる。
第十五回課題「修学旅行」。はてなマーヤとの三度の出会いを書く。
2 第十五回合評「修学旅行」。恥ずかしがるマーヤ、提出したことを後悔するはてな。マーヤに謝ろうとデートを申し込む。
3 初めて二人だけのデート。横浜山下公園、人形館。横浜球場。謝るはてな。
はてな祖父、父のことを語る。純粋、異和感、父母の離婚。
4 第十六回課題「連作小説の完成」はてなとマーヤのシンクロ率高い。
5 第十七回課題「変身譚―花びらかまきり―」創作に苦しむはてな。
翌年一月文化祭冊子「百八煩悩」県教育長賞受賞。喜ぶ部員達。マーヤ変身。
6 一月三十一日「変身譚」の合評。はてな学校の帰路、国道16号線の交差点で車にはねられる。はてな消滅。次の課題は「地獄物語」。はてな死の世界へ。
7 悲しむ部員達、はてなの葬式。(終)
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辺りが薄暗くなってきた。風も強さを増している。
ぼくはマーヤが二度ほど読み終わった頃合いを見計らって話し始めた。
「先日夏休みの連作小説を完成したよね。まだ次の課題は発表されていない。ところが、これには第十七回の課題として『変身譚』と書かれている。ま、それは先生の頭の中の予定だから、ここに書いてあっても不思議じゃない。
しかし、決定的なのはこれだ(ぼくは5の二行目を指さした)。文化祭の冊子が教育長賞を受賞するなんて、十二月末か一月にならなきゃわからないはずだ」
今はまだ十一月初め。それでもマーヤは驚かない。
「そうかしら。堺羽根先生はもう結果を知っているんじゃない? 先生は九月末に『百八煩悩』を高校文芸誌コンクールに送ったと言ってたじゃない」
「いや、違うと思う。先生はコンクールの役員じゃないし、いくら何でもまだ結果は出ていないと思うんだ。第一君は先日行った横浜のデートのことを先生に話したかい?」
「……!?」
マーヤが絶句した。たぶん顔が青ざめただろう。梗概メモの異常な点にやっと気づいたようだ。
「ホント! なぜ先生はあのことを知っているの? 私、お母さんにだって話していないのに」
「ぼくだってそうだ。家族の誰にも行き先を告げていない。まして先生に言うはずがない。二人だけの秘密だもの。だったら、なぜ梗概に横浜デートのことが書いてあるのさ?」
ぼくの背筋を改めて悪寒が走る。マーヤも半信半疑ながら、次第に深刻な顔になってきた。
マーヤはもう一度メモに目を通した。そして、急に怯えた声になった。
「ね、このマーヤ変身て何?」
「わからない。まさか君が花びらカマキリに変身ってことじゃないだろうね。きれいなカマキリだったら見たい気もするけど」
ぼくは冗談めかして言ったのに、マーヤはにこりともしない。そりゃそうだ。カマキリに変身なんて死ぬより嫌なことかもしれない。
「ごめん。冗談です」
「でも、おかしな点もあるわ。地獄物語って来年一月の課題になっているけど、既に今年の一月から三月にかけて作り上げたじゃない。妙だわ」
「そうなんだ。そこんところはぼくにも訳がわからない」
「……」
マーヤもぼくも暫く黙って考えた。この梗概が謎だらけなことは間違いない。何よりもしもこの梗概通りだとすると、ぼくは来年一月三十一日車にはねられて死ぬってことだ。その前にはマーヤが何かに変身する……。
突然マーヤは叫んだ。「そんなことってない! 絶対にありえないわ。はてなが一月に死んでしまうなんておかしいよ。私の変身だって今の世の中で、そんなこと現実に起こるわけないじゃない。きっとこれは何かの間違いか、堺羽根先生が未来を予言しただけの……」
マーヤはまた絶句した。自分で言ったことの怖さに気づいたようだ。
「そうなんだ。仮に予言だとしても、何で堺羽根先生がそんなことを予言するんだ。ぼくの死まで予想するなんてものすごく失礼じゃないか。
逆にもしこれが真実なら、やっぱり彼は人間じゃない。神様か何かってことになる。だとすると、これは現実に起こるかもしれない。あるいは、まるでSFだけど、彼はタイムトラベラーとして過去や未来を見てそれを書き留めたのか……」
マーヤは押し黙った。ぼくも黙った。風の音だけが寂しげに鳴っている。
ぼくらは二人とも堺羽根先生に会って真相を確かめようと言い出せずにいた。
よくあるSF小説のように、これが秘密の真実なら、会って尋ねた途端に記憶を消されるかもしれない。あるいは、「素材は君たちだけど、全てフィクションだよ、メンゴ、メンゴ」とか何とか言って適当にあしらわれるのが落ちだ。
ぼくらは考え疲れた。あたりがかなり暗くなってきたので、とりあえず帰ることにした。F駅まで歩くと三十分はかかる。ぼくはマーヤを駅まで送っていくことにした。
しばらく歩いてSセンターの正門前を通った。マーヤと二人だけでここを歩くのは五月の強制デート以来だ。
Sセンターを過ぎたところでマーヤがぽつりと言った。
「ね、はてな……君のお父さんとお母さん、離婚したの」
ぼくは立ち止まってあちゃあと思った。梗概にはそのことも書かれてあったんだ。
「うん、今年の九月に。ごめん、言うの忘れてた」
「そう……」
マーヤはまた黙って歩き始めた。ぼくも続いた。前もって話しておくべきだと思った。しかし、もう遅い。マーヤは梗概の内容がどこまで真実なのか、確かめようとしているのだろうか。
それから暫くしてまたマーヤは呟くように言った。
「はてな。君は私を愛するようになったの?」
どきっときた。何て「単刀直入」な質問なんだ。ぼくは薄闇の中で顔が真っ赤になった。呆気にとられてどぎまぎして言葉が出てこなかった。
マーヤは続けた。「あの梗概がほんとなら、1に書かれていたこともホントかな……と思って」
ぼくは決心した。自分の心に正直に話そうと思った。
「うん、ほんとのことだ。怖いけどぼくの気持ちはあの通りだ」
「そう。でも、君が愛した私ってホントの私じゃないと思うな。君の心の中に描かれた私だと思う」
それだけ言ってマーヤは口を閉ざした。
今度はガーンときた。そして、こんな時に、なんて残酷な言い方なんだと思った。マーヤのそんな反応も言葉も、梗概には全く書かれていないのに(そうか、この恋が成就するとも書かれていないか)。
ぼくは言葉が出てこなかった。どう言ったらいいのか。それはいわゆる「理想化」ってやつだろうか。しかし、ぼくはマーヤの何を、どのように理想化したと言うんだ。
マーヤはそれ以上説明してくれなかった。一体彼女はぼくをどう思っているのか、それを聞きたい気がした。が、聞くのが怖いような気もした。
やがて国道16号線のF十字路に出た。ここからは人通りが多いのでここで別れることになる。
交差点を渡ったところで、マーヤは「じゃあ、明日また相談しよ」と言って駆けていった。
ぼくは「うん、さようなら」と応じた。さっきの返事をする機会をのがしてしまった……。
振り返って交差点を眺めた。16号線はライトを灯した車が猛スピードで走り抜けている。今後ここだけはものすごく慎重に渡ろうと思った。少なくとも来年の一月三十一日だけは来ないようにしようと。(略)
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一点だけ補足。ここに「はてな、遠い世界へ(仮題)」の梗概がありますね。全体のPDFファイルは以下のとおり。
久保はてな「はてなの遠い世界へ――マーヤの変身譚」
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
後記:なお、没にした17号は「伏線」についても詳しく書く予定でした。
前節を読み終えたとき、読者から出た可能性があるつぶやきが以下。
1「あんたは作者だから、伏線が6つも8つもあると指摘できたんだろ」ぶつぶつ。
2「作品全体を読んでいないのに、冒頭1節の伏線を指摘できるわけなかろうが」ぶつくさ(^_^;)。
この不満に答えるべく「前号の補足と復習」を書こうと考えたわけです。
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