『続狂短歌人生論』06「独裁者の破綻 その2 家庭」


○ 国であれ 小さな家の中であれ 独裁支配は破綻に至る


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ゆうさんごちゃまぜHP「続狂短歌人生論」   2023年4月12日(水)第6号


 『続狂短歌人生論』6 独裁者の破綻 その2 家庭

 まずは前節後記の一読法課題について回答です。結構答えられたのではないでしょうか。

 高校野球について「もう脅迫と批判しかできない監督や連盟トップは総退陣願った方が良い」と書きました。では「脅迫・批判タイプが監督・顧問にふさわしくないとすればどのタイプがいいのか。傍観か受容か」との疑問。
 答えはどちらもダメ(^_^;)。そもそも外部招聘なら傍観者・受容者は監督に選ばれない。顧問ならあり得ます。

 傍観者は無関心が基本だから部活のことなどどうでもいい。受容者は自己を主張せず何でも受け入れる。よって、この二タイプは部活動を生徒に丸投げする。「自由にやりなさい」と放任する。
 部員は顧問をあてにせず自分たちで勝手にやる。結果、筋トレとかスタミナをつける持久走などはつまらないからやらない。試合形式の楽しい練習ばかりするので、チーム(団体)は強くならない。
 それでも部員の中から一人キャプテンが決まる。選ばれるのは力強い脅迫タイプか優秀な批判タイプ。このキャプテンがチームを強くしようと独裁的になると、集団の規律を乱す部員を追い出そうとしたり、脅迫と威嚇で部活内をまとめようとする。いじめも起きやすい。
 だが、傍観・受容タイプの顧問は独裁的キャプテンをコントロールできない。

「おいおい。それじゃあ監督・顧問にふさわしい人材はいないじゃないか」と言われそうです。
 そのとおり――と答えざるを得ないけれど、さすがに常識的・良識的顧問はWBC監督のように、部活動を指導している(と思います)。どうやって?

 彼は(もちろん)選手を殴って従わせるようなことはしない。「オレの言うことを聞け」と命令することもない。「そこが悪い、ここが悪い」とあれこれ批判することもない。選手と積極的に対話して自発をうながす。誰かが不調であっても復活を信じて待っている。全て受け入れて「最後に責任を取るのは自分だ」と公言できる。(おそらく)裏に回って愚痴を言うこともない。

 つまり、WBC監督は脅迫者ではなく、批判者ではなく、傍観者でもない。受容者でありつつ単なる受容者ではない。実は私が本稿ラストにおいて描こうとする人格の理想像がここにあります。
 それは四タイプの悪しき特徴を露にすることではなく、脅迫・批判・傍観・受容の統合を目指すことです(^_^)。

 もう一つ私の作品について実現不可能と思える「戦争を防ぐには〜国のリーダーが戦争をやると決めるのではなく、兵士ひとりひとりが決めること」と書いたところ。
 どうして《国民》が決めるのではなく兵士ひとりひとりなのか。

 国民は集団と時流の感情に流されて正しい決断ができるとは限りません。2001年9月11日アメリカで同時多発テロが起こりました。ブッシュ大統領は報復として対テロ戦争を宣言。翌年アフガニスタン侵攻を開始した。そのとき国民の9割は戦争を支持した。

 だが、10年経つと「戦争はすべきではなかった」との国民が多数になったと言われます。20年経つと米軍はアフガニスタンから撤退、国民はそれを支持しました。
 戦争ではなく運河をつくることで大地は緑にあふれ兵士を農民に戻せる。それを中村哲氏が証明してくれました。

 また、独裁が完成したとき、国民の8割、9割は反対意見を表明することができない。特に傍観者は大勢に合わせて賛成票を投じる。兵士は多くとも国民の1割くらい。命令が絶対ならもちろん全員「戦争に賛成」と言う。言うしかない。
 だが、もしも最後の一点に関しては「内心を正直に打ち明けていい。命令に従わなくてもいい」なら結果は違う。一体誰が「殺されてもいい、殺人犯になってもいい」と思いましょう。「国と愛する人を守るため」戦争に賛成したとしても、最前線の悲惨な状況を目にすれば、「こんな戦争やめるべきだ」と思うはず。
 リーダーは勝つまで(負けが確定するまで)戦争をやめることができない。だから、戦争をやるかどうか決めるのは兵士が最もふさわしい(と私は思います)。
 今のウクライナ戦争を見れば、わかるのではないでしょうか。

 さて、前節は独裁者、国家版について語りました。
 今節は家庭版です。(本文は「である」体)



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 (^_^)本日の狂短歌(^_^)

 ○ 国であれ 小さな家の中であれ 独裁支配は破綻に至る

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 (^_^) ゆとりある人のための20分エッセー (^_^)

 【『続狂短歌人生論』6 独裁者の破綻 その2 家庭 】

 その2 家庭

 国は乱れているほど強いリーダーシップを持つ指導者が待望され、交替がないと独裁体制が完成する――と前節にて語った。意外かもしれないが、独裁者は小さな家の中でも発生する。

 そもそも集団は常に権力闘争の渦中にあると言っていいだろう。
 権力闘争とは国家や政党だけの話ではない。革命という理想を追求しようとした小集団(連合赤軍)だって権力闘争の結果反対勢力を抹殺して土中に埋めた。

 権力闘争とは「誰が集団の主導権を握るか」である。つまり、この集団において最終的に「こうしよう、こうするぞ」と決定するのは誰か。
 小さな家族なら、それはお父さんかお母さんか。
 祖父母も同居するなら、おじいさんかおばあさんか。
 あるいは、子どもか。

 子どもが主導権を握るなんて「ないだろう」と言われるかもしれない。

 だが、夫婦二人で暮らしていたところに赤ん坊が一人、二人と生まれれば、家の主導権は赤ん坊が握る
 もちろん赤ん坊が「ああしろこうしろ」と親に命令するわけではない。若い父と母が赤ん坊の世話とめんどうを全てに優先させてやらねばならないという意味である。

 赤ん坊が腹減ったと泣けばお乳やミルク。排便があればおむつ。ぐずって泣けば抱いてあやす。毎日お湯に浸けて清潔にしないとすぐ皮膚病になる。
 夜中起こされることもたびたびで、最初は24時間全て支配される

 赤ん坊が着るもの、食べるもののために、親は自分の着るもの、食べるものを我慢する。おしゃれをやめ、映画やコンサートに行くことをやめる。こうしたことを決定するのは赤ん坊ではないか。

 私はかつて安倍公房『赤い繭』を授業でやったとき、生徒に「人は何かを得たとき必ず何かを失っている」と話したことがある。
 作中浮浪者の「おれ」は家を求めて街をさまよい、最後に体が糸のようにほどけて赤い繭となる。つまり《家》は手に入れた。だが、「中で住むべきおれがいなくなった」とつぶやくところで作品は終わる。

 私は「これをどうとらえるかは自由だけど、何かを得るために何かを失う必要があるとすれば、何も持たない彼は体を失うしかなかったとも言える」と解説した。

 余談ながら「では(と生徒に聞いた)、宝くじが当たって大金を得たとき失うものは何か」、「若い夫婦に子どもが産まれたとき失うものは何か」と。
 答えは――前者が《友情》、後者は《自由》。

[後者の流れは上記に記したとおり。前者の経緯は考えてみてください。私はある生徒に「君に1億円当たったとしたら、それを友人に話すか話さないか。話すとすれば彼にいくらあげるか」と質問することで、やがて友情が壊れていく経緯を語ったものです(^_^;)]

 もちろん赤ん坊が長ずるにしたがって家庭の主導権は父か母に移る(戻る)。
 だが、もしも不登校や引きこもりの結果、子どもが暴力的になったら、そのときも家庭の主導権は子どもが握る。この子は父や母、兄弟姉妹に暴力をふるって一家を支配しようとするだろう。支配が完成すれば、その子が独裁者として家のことを決定する――そのような例はよく見られる。
 外からはなかなかわからず、ある日突然「父が息子を殺す」事件として発覚することが多い。

 私は前著『狂短歌人生論』の中で「大支配と小支配」について触れた。かつて家庭を支配していたのは脅迫者・批判者の父であった。今は批判者の母である。20年前には批判者の母が独裁者となることはなかったのではないだろうか。
 だが、世界に独裁国家が増えたように、日本の――小さな家庭においても独裁者の母が増加しているようだ。

 今年(2023年)1月にちょっと衝撃的な事件があった。16日の深夜ネットに「静岡県М市で中一(13歳)の娘が母をめった刺しにして殺害した」一報が流れ、翌17日の朝大分ローカルニュースで「母親が娘を殺した」との報道があった。
 私はそれを聞いて「あれっ逆じゃないか」とつぶやいた。

 ところが、後者の母親による娘殺しは大分県N市のことであり、40代のシングルマザーが小一(7歳)の娘を殺した事件だった。後に娘による母殺し、母による娘殺しは16日の深夜0時頃発生していたこともわかった。
 私は同日ほぼ同時刻に(二件の相反する)母子殺人が行われていたことにショックを受けた。

 その後数日間テレビのワイドショーでは静岡の「娘が母を殺した」件は取り上げられていた。スマホの使用をめぐってトラブルになっていたようだ。だが、母が娘を殺した方は(私が知る限り)取り上げられていなかった。もう親が子を殺すことなど日常茶飯の事件になってしまったのだろうか。

 その後大分ローカルでは断片的な報道がなされ、母親が子育てに悩んでいたこと、「子どもを殺して自分も死のうと思った」などと情報が流れた。「母親は警察に相談した」との言葉もあった。

 一方、中一の娘による母親殺しは詳細がわかってきた。スマホをめぐるトラブルは最後のきっかけにすぎないだろう。娘が「この母親を殺すしかない」と思い詰めたこと。おそらくそれまでに何度となく母の命令があり、娘が幼いころは全て従っていた。だが、長ずるにしたがってそれは言い争いとなり、(おそらく)常に母親が勝っていたのではないか。小学校6年間、娘は母に支配され続けたのかもしれない

 スマホをめぐって激しい口論になったとき、娘はこう考えた(だろう)。「これまで母の言うことを聞いて支配されてきた。今も支配されている。これから未来永劫、母は自分を支配し続けるに違いない」と。
 母の支配から逃れるには逃げ出すか。だが、家出してもきっとこの家に連れ戻される。また母と一緒に暮らさねばならない。「もういやだ! この母と一緒に暮らしたくない! もう殺すしかない!」と思い詰めていったのではないだろうか。

 この状況は「医学部を9浪した娘が母親を殺してばらばら死体にして埋めた」事件と重なる。
 こちらの事件は2018年3月(10日)滋賀県М市の河川敷で「両手、両足、頭部のない、体幹部だけの人の遺体が発見された」ことで発覚した。やがて遺体は近くの一軒家に住む58歳の女性と分かり、31歳の娘が逮捕された。
 母親はシングルマザーで二人だけで暮らしていたこと、娘は母の指示によって9年間医学部を受験し続けていたこともその後判明する。

 ただ、私がこのニュースを知ったのは昨年12月ころのこと。18年当時は知らないままだった。
 どうして知ったかと言うと、ネットでこの話題が再び(?)取り上げられるようになったからだ。一人のノンフィクション作家が獄中の娘と交わした往復書簡を元に『母という呪縛 娘という牢獄』(齊藤彩著・講談社)を出版しており、評判になっていた。

 こちらの母親は娘を支配し続けたことが(推察ではなく)はっきりわかる。医学部を9浪するまで受験させる。娘に9年間の浪人生活を強要する母親とは独裁者以外の何ものでもない。そして、結末は家庭においても独裁者の抹殺である。
 母を殺した31歳の娘は直後のツイッターに「モンスターを倒した。これで一安心だ」と投稿していたという。

 邪推だが1月に母親を殺した中一の娘は、もしかしたら本を紹介するネットコラムを読んでいたかもしれない。「医学部を9浪したあの人は自分の未来の姿だ」と思い、「20年後に殺すくらいなら今殺した方がいい」と決意したとしても、私は不思議に思わない。

 国家における独裁も、家庭における独裁も完成してしまうと、当人の死をもって終わらせることしかできない
 以前も書いたように脅迫者がもっと強烈に変貌した独裁者は反省することも、人の意見を聞くこともない。自分が絶対正しいと思って暴力と威嚇を周囲の人間に振るい、絶対服従を強要する。批判者だって独裁者になる。

 周囲は受容者として支配に従うか、傍観者として眺めるしかない。医学部を9浪した娘には離婚した父親がいて月に一度会っていたそうだ。だが、父親は傍観者となるしかなかったのであろう。独裁の母に意見を言うことはできない。

 では、独裁者を防ぐにはどうすればよいか
 家庭においてはその芽のうちから摘むこと。最初は脅迫者として君臨し始める。その初期段階から「行きすぎていること、暴力的であること、人を脅して自分の意向を通そうとしていること。それは過ちである」と説得せねばならない。
 時には相手から暴力が振るわれることもあるだろう。そのときにはどんな小さなことでも、いや小さいからこそ警察沙汰にする。それしかないと私は思う。


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 最後まで読んでいただきありがとうございました。


後記:以前本稿を「狂短歌人生論」の『続編』にするか『拾遺集』にするかで迷っていると書きました。
 前著の残りを羅列する拾遺集ではなく、新たに執筆する部分も入れて「本格的な続編に仕上げよう」と決意したのは、1月の事件を知ったときです。

 ロシアの独裁者がウクライナに侵攻するだけでなく、世界の独裁者は自国国民と近隣国に不安と恐怖を与えている。それは小さな家庭でも同じ。当人を不幸にし、殺すしかないと決意した子どもをもっと不幸にする。絶対に独裁者を許してはいけない……この思いが『続編』を書く原動力となりました。


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