○ 過ちを繰り返すこと二度三度 愚かなれどもそれが人間?
ゆうさんごちゃまぜHP「続狂短歌人生論」 2024年03月15日(金)第48号
『続狂短歌人生論』48 『杜子春』を一読法で読む 前半 その2
前号後記のつぶやき。老人が仙人とは限らない理由について。
根拠は黄金のありかを杜子春に教えるとき、夕日に伸びた影の「頭→胸→腹」とあるところ。
老人は「黄金がその三カ所に埋まっている」ことを知っているだけではないか。もしかしたらかつて王家とか大臣、豪商と縁があった人で、たとえば戦乱や天変地異で当主がそこに黄金を埋めたことを知っている。その後彼だけが生き残って秘密を知る人間は他に誰もいない。だから、それを杜子春に教えることができたと。
もちろん作品は「いかにもおれは峨眉山に棲んでいる、鉄冠子という仙人だ」と告白される。そうなると、何でもできる仙人なら彼が黄金を作り出す技術を持っているかのように思えます(西洋ではかつて「錬金術師」と呼ばれる人たちがいて懸命に鉄を金塊に変えようとしました。これがその後化学に発展したと言われる)。
が、掘った場所が違うのだから仙人は錬金術師ではない。千里眼かレントゲンのような透過術を身に着けたと言うべきでしょう。つまり、彼は地面のどこに金銀財宝が埋まっているか透視できる。それを杜子春に教えたわけです。
一読法なら、老人はなぜ仙人だと打ち明けたか。なぜ弟子にしてもいいと思ったか。当然[?]マークをつけるところです。
青空文庫『杜子春』は→こちら
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3月15日(金) 48号 『杜子春』を一読法で読む 前半その2―――――本号
〇 過ちを繰り返すこと二度三度 愚かなれどもそれが人間?
(^_^)本日の狂短歌(^_^)
○ 過ちを繰り返すこと二度三度 愚かなれどもそれが人間?
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****************** 「続狂短歌人生論」 ***********************
再度『杜子春』前半からわかった杜子春の人なりをまとめておきます。
・杜子春はうそつきではない。正直な人だ。大金を得たことを隠さなかった。
・杜子春は知人友人を大切にしている。訪れる人を拒んでいないし、共に酒盛りをしている。
・杜子春はやさしい。落ちぶれた乞食のような人に対しても食事や水を恵んだと思われる。
・杜子春は愚かな人だ。せっかくの大金を三度も失っている。同じ過ちを繰り返している。
[ここで一読法読者なら「おいおい」と立ち止まらねばなりません。前号杜子春の人となりをまとめたところで、「杜子春は愚か」はなかったし、あんたは以前「杜子春は愚かな人でしょうか。いや違う」と書いていたじゃないかと。
私が「気づきましたか?」と聞けば、「それくらい気づくよ」と答えるでしょうね(^.^)。]
茶々はそれくらいにして本論開始。
前号の趣意は作品を読み終えてすぐ「杜子春は愚かな人だ。ダメ人間だ」とただ一つにまとめてしまう。それを問題視しました。
だから、丁寧に読めば、杜子春は正直であり善人だ。やさしい人と読み取れる部分があることを指摘したわけです。
しかし、さすがに「杜子春は愚か」を入れないわけにはいきません(^.^)。
せっかく大金を得たのに、三度も同じことをやって失うなんて。
でも、冒頭の狂短歌で詠んだように「ではダメ人間か」と問うなら、「それが人間だ」と言わなければならない。私たちは愚かだと思っていても、同じ過ちを二度三度繰り返してしまう。人間とはそのような生き物ではないでしょうか。
たとえば、懲役刑となるような罪を犯して刑務所に入る。刑期を終えて出所してもまた同じ犯罪で捕まる。特に軽微な犯罪の再犯率は5割近いと言われます。
有名人による麻薬とか覚醒剤なども初めて逮捕され、仮釈放となって警察を出るとき深々と謝罪する。その後テレビなどで復帰することもある。だが、何年か経って同じ人が「また逮捕された」と報道される。よく聞く話です。
では、彼らはどうしようもないダメ人間だろうか。私なら授業で生徒に問いかけます。
「あなた方は同じ過ちを二度、三度繰り返したことはないかい?」と。
たとえば、親から「悪い癖だから改めなさい」と言われたことはないか。
先生から生活態度を注意されたら、二度と同じことで注意されないか。
私なら遅刻の多い、髪の毛を赤く染めているBさんに聞くでしょう。
「君は遅刻が多いと注意されたら二度と遅刻しないかい?」と。
彼女は正直に(たぶん顔赤らめて)「いえ…」と答えるでしょう。
私は彼女と親しいCさんに尋ねます。
「では君に聞きたい。二度三度と遅刻を繰り返すBさんはダメ人間かい?」
するとCさんは憤慨して「そんなことありません。確かに遅刻は多いけどいい人です」と答えます。
「Bさんはバイトをしているね。君はバイトで毎回のように遅刻するかい?」と聞けば、
彼女は「いえ。しません」と答えます。
「そうだろうな。だってバイトで二度も三度も遅刻したり、黙って休まれたら『明日から来なくていい』と言われるだろう。学校には遅刻するけど、バイトでは遅刻しないんだから君はダメ人間ではない。敢えて言えば、学校には甘えているってところかな?」
(余談ながら、学校の先生が本稿を読んでいるなら、私はBさん、Cさんとの間に信頼関係を構築した後だから、こうした問答ができるとご理解ください)
このような例を出しつつ、二度三度同じ過ちを繰り返すのはよくあることであり、それもまた人間というものだとまとめます。
そして『杜子春』に戻ります。
杜子春が「三度大金を得て三度失うという過ちを繰り返した理由」についてみんなで考えます。
ここは結論のみ書きます。
・杜子春は断ることができない。人に対して冷たい対応をとれず、流されてしまう。
以前も抜き出したように「訪れる知人友人が貧乏になったら付き合いをやめる、一晩泊めてくれと頼まれても断る、「せめてお椀一杯の水」さえ恵まない――そういう人はお金を失わない。つまり、杜子春の「やさしさ」が大金を三度も失う原因になっていると言える。
もちろんこれだけではない。最も大きな理由は
・このぜいたくな生活が「楽しい」から。「気持ちいい」から。
知人友人と一緒に酒盛りをするのは楽しい。金銀財宝の山に囲まれてちやほやされるのは気持ちがいい。だから、杜子春は一度始めたこのぜいたくを途中で変えることができない。
こうして悟ったことは?
仙人が三度目も現れて「ではおれが好いことを教えてやろう」と、再度黄金のありかを教えようとしたとき……、
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杜子春は急に手を挙げて、その言葉を遮(さえぎ)りました。
「いや、お金はもういらないのです」
「金はもういらない? ははあ、では贅沢をするにはとうとう飽きてしまったと見えるな」
老人はいぶかしそうな眼つきをしながら、じっと杜子春の顔を見つめました。
「何、贅沢に飽きたのじゃありません。人間というものに愛想(あいそ)がつきたのです」
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愛想が尽きた――すなわち人間というものに絶望した理由を、杜子春は以下のように語ります。
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「人間は皆薄情です。私が大金持になった時には、世辞も追従もしますけれど、一旦貧乏になって御覧なさい。やさしい顔さえもして見せはしません。そんなことを考えると、たといもう一度大金持になったところが、何にもならないような気がするのです」
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そして、杜子春は「仙人になりたい」と言います。
ここで尋ねたいのは当然「なぜ仙人になりたいのか」という疑問ですが、小説上の答えとしては「人間は皆薄情だ、人間というものに愛想が尽きたから」となります。
しかし、(書かれていないけれど)、次のような理由も考えられます。
・仙人は大金をくれるというけれど、また貧乏になって一文無しになったら現れてくれると限らない。仙人になれば、大金を自分で生み出せるはず。そうなれば死ぬまで大金を生み出せる。こりゃあ仙人になった方がいい……と。
もう一つは「人間に愛想が尽きた」と言う「この《人間》の中に杜子春自身は入っているだろうか」と問題にします。選択肢は次の二つ。
A 杜子春が大金持ちになったら、知人友人はお世辞・追従をするけれど、一旦貧乏になったらやさしい顔を見せない。杜子春は一椀の水さえ恵んでくれない彼らに失望した。だが、「自分はそんなことはない」と思うなら――愛想が尽きた人間の中に杜子春は入っていない。
B 大金を三度失わなければ愚かさに気づかない自分。三度同じ過ちを繰り返しても「自分は変われない」ことがわかった。もう一度大金を得ても、自分はまた同じことを繰り返すだろうと予想できる。このような自分に失望して絶望した――なら、愛想が尽きた人間の中に杜子春自身も入っている。
私は後者の方が強いかなと思います。それは人間でないもの、人間を超えた存在である仙人になりたいと思うからです。
ここで次のような意見が出てきたら賞賛したいし、出なければ「C その他」として「何かもう一つないかな?」と考えてもらいます。
C その他
仙人になりたい理由として友人たちを「見返してやる」があるかもしれない。
彼が過去二回「黄金を掘り当てた」と語っていたなら、友人たちは「すごい、すごい」と称賛しただろう。そして、たかるだけたかって金が尽きれば見捨てられた。
もしもこれで三度目となる「黄金を掘り当てた」と言ったとしても、また同じことが繰り返されるだけ。自分はもっとすごい力を身につけたと彼らに見せつけてやりたい。それが「仙人となって彼らの目の前で空を飛び回ること」と考えたかもしれない。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
後記:一読法クイズです。
財産を三度も失う、変われない杜子春を「愚かだ、ダメ人間だ」と言うなら、前半には杜子春同様変われない人がいます。それは誰ですか? そちらは愚かでダメ人間ではないのでしょうか。
すぐに答えられないようなら、一、二、三節を再読してください。
→青空文庫『杜子春』
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