『続狂短歌人生論』51 『杜子春』を一読法で読む 前半 その5


○ 三度目に変わることなく 四度目を 迎えたならば命を失くす


|本文 | 『続狂短歌人生論』トップ |HPトップ|



ゆうさんごちゃまぜHP「続狂短歌人生論」   2024年03月22日(金)第51号


 『続狂短歌人生論』51 『杜子春』を一読法で読む 前半 その5

 前号後記の答えです。杜子春は仙人になれるかどうか。
 一読法では三節――前半を読み終えたら未来予想は必須です。
 必須の「必」は「必ず」、「須」は漢文の「すべからく〜すべし」。すなわち、必ず「やる!」ってこと(^_^)。やらねばなりません。「この後どうなるんだろう?」と予想する。いくつ予想を言えるかで、あなたの想像力が試されます。

 以前『一読法を学べ』で書きました。たとえば、中学生の息子が勉強部屋で壁を殴って穴を開けた。次に母親に対して乱暴な言葉を吐くようになった。
 これが「起」であり「承」であると自覚して未来を予想しなければならない。

 その都度父である自分はどうすべきか(多忙だからとか、子どもの教育は妻に任せているなどと言わず)考えて実行しなければならない。「別に大したことじゃない」と楽観的未来しか予想できなければ、十中八九辛い未来がやって来る。
 現実生活でも必要な未来予想。一読法はその訓練を行っているのです。

 いくつかあげた杜子春の未来予想に対して仙人の言葉(三節)の中に答えがありました。
「そうか。いや、お前は若い者に似合わず、感心に物のわかる男だ。ではこれからは【貧乏をしても、安らかに暮らして行く】つもりか」とあります。

 後半を読まずとも、これが杜子春の未来だとわかります。数ある可能性の一つではなく、これしかない。abcを選ばないなら、《d》「フツーの生活を送ること」だからです。
------------------------------
d 杜子春は仙人になれなかったけれど、なれなくていいと感じ、「大金は得られなくとも穏やかに生きていこう」と思って貧しい暮らしを始める。
------------------------------

 通読だと仙人の言葉はすーっと通り過ぎるでしょう。だが、一読法なら[?]マークをつけてつぶやきます。「どうして仙人はそのように断言できるのだろうか?」と(答えは本文にて)。

 ちなみに、C予想の「a 自殺する b 無差別殺人に走る c 詐欺師か強盗になる」が現代の若者の絶望と悲観の未来(現在?)を描いていることはもちろんお気づきでしょう。杜子春はabcを選びません。

 逆に「e 夢をかなえる」若者もいる。たとえば米大リーグで大活躍する二刀流のあの人、日本の将棋界で八冠を達成したあの人。ともに二十代。
 もちろん今夏のパリオリンピックに出場を決めたアスリート、歌手やアイドル、俳優、芸能界で華々しく活躍する若者もいる。

 仙人は杜子春に「金持ちにうんざりしたなら《d》か」と尋ねた。すると、杜子春は「《e》 夢をかなえたい」と答えたわけです。

 最終的に多くの若者は夢破れて「d 貧しくとも穏やかに暮らそう」と思って平凡な人生を歩む。
 仙人鉄冠子(作者芥川龍之介)は若者にそれを教えているように思えます。
 現代の危機は若者に《d》の生き方さえ難しいと感じさせていることかもしれません。

 もう後半に入っても良いのですが、どうしてもこの未来予想の意味するところと、前半にあったキーワード「三度」について語っておかねばなりません。

 青空文庫『杜子春』は→こちら


3月13日(水) 47号 『杜子春』を一読法で読む 前半その1
 〇 続編の掉尾を飾る具体例 それは『杜子春』 最適最高

3月15日(金) 48号 『杜子春』を一読法で読む 前半その2
 〇 過ちを繰り返すこと二度三度 愚かなれどもそれが人間?

3月18日(月) 49号 『杜子春』を一読法で読む 前半その3
 〇 痛い目にあってようやく変えられる 三度目ならばまだ救われる

3月20日(水) 50号 『杜子春』を一読法で読む 前半その4
 〇 やさしさと弱さゆえに変えられぬ 絶望の中希望はあるか

3月22日(金) 51号 『杜子春』を一読法で読む 前半その5―――――本号
 〇 三度目に変わることなく 四度目を 迎えたならば命を失くす



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 (^_^)本日の狂短歌(^_^)

 ○ 三度目に変わることなく 四度目を 迎えたならば命を失くす

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
===================================
****************** 「続狂短歌人生論」 ***********************

 (^_^) ゆとりある人のための20分エッセー (^_^)

 【『続狂短歌人生論』51 『杜子春』を一読法で読む 前半 その5 】

 本題の前にしばし授業風景を。
 仙人は杜子春に「金持ちにうんざりしたなら貧乏でも安らかな生活を送るか」と尋ねた。
 すると、杜子春は「仙人になる夢をかなえたい」と答えました。

 対して仙人の様子は以下のように描かれます。
------------------------------
 老人は眉をひそめたまま、暫くは黙って、何事か考えているようでしたが、やがて又にっこり笑いながら、
「いかにもおれは峨眉山に棲んでいる、鉄冠子という仙人だ。始めお前の顔を見た時、どこか物わかりが好さそうだったから、二度まで大金持にしてやったのだが、それ程仙人になりたければ、おれの弟子にとり立ててやろう」と、快く願いを容(い)れてくれました。
------------------------------

 私なら生徒に「仙人は暫く黙って一体何を考えたのだろう」と聞きます。
 仙人の「眉をひそめた」とは重い表現です。「困った」てな意味合いがあります。
 また、「暫く」も「ああいいよ」って感じの即答でなかったことを表しています。そして「にっこり笑っ」た――のはなぜか。
 この答えはここにはない。いろいろ推理してほしいところです。

 授業ではもう一つ、「暫く」ってどのくらいだろう、と考えてもらいます。
 辞書を引けば、[すぐではないが、あまり時間がかからないさま。 少しの間]とあります。
 では、10分か、5分か、2分か、1分か?
「眉をひそめて何か考えるんだから、最低1分はあるんじゃない?」との結論が出るでしょう。

 そこで授業では隣同士か前後の二人を一組として一人が杜子春、もう一人が仙人となってそれぞれ演じてもらいます。
 杜子春役に以下の言葉を言ってもらって仙人役には(私が時計を見ながら)1分間無言演技をしてもらい、最後ににっこり笑いながら上記のセリフを言う。

「それも今の私には出来ません。ですから私はあなたの弟子になって、仙術の修業をしたいと思うのです。いいえ、隠してはいけません。あなたは道徳の高い仙人でしょう。仙人でなければ、一夜の内に私を天下第一の大金持にすることは出来ない筈です。どうか私の先生になって、不思議な仙術を教えて下さい」

 部屋中にこの言葉が広がって隣まで聞こえそうなほど。
 私「おい。セリフが棒読みになっているぞ。杜子春の必死さが感じられない。もう一度!」とテイク2をやって本番(^_^)。

 カウントはしないので、一転室内には静寂が広がります。
 そして1分後(私が手を振り)、仙人役が上記を「にっこり笑いながら」言って「カット!」。
 1分間生徒の反応が見ものです。眉をひそめて四苦八苦。
 終えておそらく「長(なげ)えぇ」と叫ぶでしょう(^.^)。

 さて、ここから本論。今号の狂短歌を再掲。

 ○ 三度目に変わることなく 四度目を 迎えたならば命を失くす

 これは49号の狂短歌、

 〇 痛い目にあってようやく変えられる 三度目ならばまだ救われる

 ――と「同じこと言ってない?」とつぶやくかもしれません。
 しばし考えた後「いや。ちょっと違うな」とつぶやいた方は読みの力が増しています。
 わからないなら、二度三度狂短歌を読み比べてください(^.^)。

 そして、「49号のは三度目に変われば救われること、だが、今号のは三度で変わらないまま四度目を迎えると命を失うと書かれている。つまり、三度で変われってことだ」と読み取ってほしいものです。

 杜子春は(作品を結末まで読むと)「仙人になれなくてよかった」と感じ、「大金は得られなくとも安らかに暮らそう」と思う。
 第三節に書かれている仙人の言葉はそのまま杜子春の未来予想でした。

 その部分を引用します。今度は杜子春の様子に注意してください。
------------------------------
 老人は杜子春の言葉を聞くと、急ににやにや笑い出しました。
「そうか。いや、お前は若い者に似合わず、感心に物のわかる男だ。ではこれからは貧乏をしても、安らかに暮らして行くつもりか」
 杜子春はちょいとためらいました。が、すぐに思い切った眼を挙げると、訴えるように老人の顔を見ながら、
それも今の私には出来ません。……
------------------------------

 老人すなわち仙人・鉄冠子は杜子春に進むべき未来を教えています。
 それは《貧乏をしても安らかに暮らす》こと。
 ただ、これは《理屈》です。仙人は理屈を語っている。論理的結論(帰結)と言ってもいいでしょう。

 人間に絶望した。「もうあの連中と一緒に生きていけない」と思えば、自死を選ぶか。
 選ばなければ、もう一度(4度目の)金持ちとなって、また同じ生き方をするか。

 それはもううんざりなら、貧乏でもいい、穏やかに安らかに暮らしていくことが選択肢となる。いや、それしかない。それが理屈の結論であり、仙人は「その未来に進むか」と指摘したことになります。

 対して杜子春はためらう。
 杜子春は仙人の言葉に対して「ちょいとためら」い、「それも今の私にはできません」と言う。なぜためらって「できない」と言うのか?

 理屈では確かにその通りかもしれない。だが、すんなり受け入れられない。
 邪魔をするのが《感情》です。

 私はしばしば「理屈と感情」について語ってきました。「理屈ではわかっている。だが、感情が認めない、受け入れない」――これは志賀直哉の有名な言葉です。

 今の杜子春が正にそれ。(書かれてはいないけれど)杜子春にとってあの楽しい生活には未練があるでしょう。しかし、もうあの連中とは付き合いたくない。かといって金を得れば自分はまた彼らに流される。彼らを拒否できない。
 では貧農の群れに入るか。おそらくその生活は苦しい。極貧の乞食生活はもっと苦しい。貧乏でもいい、心安らかに生きる生活をどうやって営むのか。その自信はない。

 だから、杜子春は仙人になろうと考えた。仙人になれば何でもできる。友人をあてにしなくてすむ。地道な生活に困ったら黄金を少し掘り当てて生活費にすればいい。それ以上の望みはない。

 かくして杜子春は「ですから私はあなたの弟子になって、仙術の修業をしたい」、「どうか私の先生になって、不思議な仙術を教えて下さい」とお願いした。

 ここで素朴な疑問として「では杜子春は仙人になって何をしたいのか?」が浮かびます。が、作品には一切書かれていません。
 この件は作品を全て読み終えたとき、また考えたいところです。

 以上、三節までのまとめでもある「杜子春の未来予想」について語りました。

 この推理から四節、五節は杜子春が仙人の言う「貧乏をしても安らかに暮らしていく」境地を受け入れること、心からそれでいいと感じることが描かれるだろう――との未来予想が成り立つのですが、さすがに三節まで読んだ時点でこの予想を出すのは至難の業でしょう。が、仙人の言葉「これからは貧乏をしても、安らかに暮らして行くつもりか」に傍線を引ければ、不可能ではないと言っておきます。

 そしてもう一つ。三節終了時点でしっかり頭に留めておくべきキーワードがあります。
 それが「三(度)」です。

 前号にて次のようにまとめました。
------------------------------
 仙人が洛陽の都を訪ねたのはこれが三度目。杜子春と会うのも三度目。杜子春に黄金のありかを教えるのも三度目。そして、たぶん四度目はない。黄金は頭、胸、腹の三カ所しか埋まっておらず、仙人は杜子春に三度しか教えるつもりはない。
 だが、杜子春は《二度目なのに》「もう金はいらない」と言った。これは仙人にとって驚きでしょう。
------------------------------

 このまとめの前に、授業では前半にある【三】を生徒に指摘してもらいます。
 生徒は次のように答えるはずです。

 [一二三節における【三】]
・杜子春は三度大金を得るが使い切って三度一文無しになる。
・仙人は都に三度やって来て杜子春に二度黄金のありかを教え、三度目も教えようとした。
・仙人が掘れと言った黄金のありかは伸びた影の「頭→胸→腹」という三カ所。

 生徒はこれで「おしまい」と言った顔を見せるので、
いや、まだまだあるぞ。よーく読んでごらん」と探してもらいます。
 以下は出なければ、私が指摘します。

 一節より
・日は暮れるし、腹は減るし、その上もうどこへ行っても、泊めてくれる所はなさそうだし……日が暮れ、腹が減り、泊るところがない。
 私「困窮の三点セットだ」。
 生徒「そりゃまーそうだけど……」と若干不満顔。

・もう気の早い蝙蝠(こうもり)が二【三】匹ひらひら舞っていました。
 生徒「いやいや。そりゃ単なる数字でしょ」
 私「でも三があるじゃないか(^.^)」

 二節より
・とうとう【三年目】の春、又杜子春が以前の通り、一文無しになって
・ですから車に一ぱいにあった、あのおびただしい黄金も、又【三年ばかり経つ】内には、すっかりなくなってしまいました。
 これは異存なし。

 三節より
・「お前は何を考えているのだ」
 片目眇(すがめ)の老人は、【三度】杜子春の前へ来て、同じことを問いかけました。もちろん彼はその時も、洛陽の西の門の下に、ほそぼそと霞を破っている【三日月】の光を眺めながら、ぼんやり佇んでいたのです。

 私「ここには二つあるね。『三度と三日月だ』」と言うと、生徒から異論続出。
 生徒「いやいや、三日月は三度に入らないでしょう」と。
 私「じゃあここ満月にするかい? 最後の漢詩にある仙人が都を訪れた回数は五でも六でもいいじゃないか。だが、作者は『三たび岳陽に入れども人識(し)らず』と『三度』にする。
 ここだって【三】を意識させるため『三日月』にするんだ。もっとも、作者に聞いたわけじゃないけどね」
 生徒憮然……(^.^)。

 この表面的にもサブリミナル的にも繰り返される「三」の数。[意味不明なら検索を]
 これは後半を読む際、頭に留めておきたい言葉です。なぜなら後半も「三度」が出てきます。そして「四度目に」杜子春は命を失いかけます

 〇 痛い目にあってようやく変えられる 三度目ならばまだ救われる

 〇 三度目に変わることなく 四度目を 迎えたならば命を失くす

 今号冒頭の狂短歌はすでに四節、五節を読み終えた段階を先取りしています。
 本来の一読法ならその段階でこのことをまとめるのですが、読者はもう何度も全体を読んでいるので、ここで指摘しておきます。

 一二三では杜子春は大金を三度得たけれど、四度目の前に気づいて「これではダメだ。自分を変えよう、変わりたい」と思った。「夢を実現させるために生きよう」と。これが前半です。
 つまり、前半は人に流され、愚かだ、情けないと言われかねない《弱い》若者杜子春が描かれます。

 対して後半(四・五節)は試練に耐えて仙人との約束を守る、夢に向かって突き進む《強い》若者杜子春が描かれます。

 峨眉山の絶壁における試練は三度。四度目に【三又】の戟(ほこ)で突き殺される。
 地獄に堕ちても杜子春は強い。決して言葉を発しない。試練は三度数えられる。
 そして、四度目。杜子春はとうとう言葉を発した。

 すると仙人は言う。「もしお前が黙っていたら、おれは即座にお前の命を絶ってしまおうと思っていたのだ」と。「えっ、なぜ?」と思います。
 仙人の言葉は三度を超えて四度目になった、と理解すれば納得できる(かもしれません)。

 以前人の弱みをゆすって大金を手に入れようとする輩は「三度までは許してくれる。だが、四度目に大金を得たときに命が失われる」例をあげました。

 現実世界の例をもう一つあげてみましょう。

 医師が健康診断の血液検査を見て「このままだと病気になりますよ」と暴飲暴食、肥満を改善して酒・コーヒー・たばこなどを控えようと注意する。
 これを一度目とするなら、二度目は脳梗塞・脳出血、心臓病などで倒れて救急搬送される。幸い命が助かるだけでなく後遺症などもなく生還できた。これが二度目なら、ここで自分の生活習慣を変えれば、次の発症はない(かもしれない)。
 だが、いつかしら痛みを忘れて以前と同じ生活に戻る。医師だけでなく身近の家族・友人が忠告する。だが、彼は変わらない。そして、三度目の緊急事態となって……死ねばまだいい。だが、生き残って後遺症とともに余生を送る羽目になる。そのときやっと気づく。変わるべきだったと。


=================
 最後まで読んでいただきありがとうございました。

後記:冒頭一読法授業には「続き」があります。
 最初にジャンケンをして勝った方が仙人、負けた方が杜子春になる。
 仙人役の方が難しいので、「なんで勝った方が仙人なの?」の抗議は無視。

 演技を終えると、1分間の「暫く」がとても長いと感想が出るでしょう。
 そこで、役柄を替えてもう一度同じことをやる。生徒「ええーっ!」

 今度は仙人役に「1分間で仙人が何を考えたか、考えろ」と課題を与え、終了後答えてもらいます。一生徒「だから負けた方が先に杜子春だったのか」
「全員言ってもらうから答えられなかったら減点。言えたらプラス点」と脅します(^.^)。

 今度の仙人役はもっと真剣に「考える」表情を見せ、終了後多くの生徒が「ダメだ。1分じゃ短い。わからない」と答えるでしょう(^_^)。

 それでも、先ほどよりはるかに多く「推理」が語られるはずです。
 たとえば、
・杜子春が仙人になりたいなどと言うとは思わなかった。これは困った。
・言うかもしれないと思ってはいたが、まだ三度目だから黄金を得れば満足すると思った。まさか二度目で言うとは。どうしよう?
・仙人になる修行は厳しい。こんなひ弱な若者にできるだろうか。
・いや、たぶん無理だ。ならば、しばらくその気分だけでも味わわせてやるか。どうせすぐ音を上げるに違いない。あれこれ悩むほどのことではない――等々。

 かくして仙人は「にっこり笑いながら……快く願いを容(い)れてくれ」たわけです。

 次号より後半に入ります。


次 52号 へ
ページトップ

 以下のサイトよりメルマガ登録ができます(無料)。↓

  『ゆうさんの狂短歌ジンセー論』メルマガ登録



『続狂短歌人生論』トップ | 6 狂短歌ジンセー論トップ | HPトップ|




Copyright(C) 2024 MIKAGEYUU.All rights reserved.