○ ひどいなら 行動せねばと走り出す 今も昔も 若さの特権
ゆうさんごちゃまぜHP「狂歌教育人生論」 2007年 11月 16日(金)第88号
前号では叱れない傍観者と受容者、ほめるの下手な全タイプの一節を紹介しました。
しかし、叱れる脅迫者と批判者がいいかと言うと、そうではありません。この二タイプの子どもは悩み・弱み・トラブル・小さな犯罪を決して親にうち明けようとしません。なぜなら、脅迫者の親からは殴られ一喝されるし、批判者の親からは徹底的に批判され叱責されるからです。彼らは「許すこと」を知りません。
……などなど脅迫・批判・傍観・受容タイプの問題点を様々に指摘され、うんざりしている読者各位も多いことと思います。今回はちょっとお口直しとして(^.^)、『狂短歌人生論』から離れ、私が最近知った「いい若者二人」の話をしたいと思います。
犯罪報道か家庭内暴力、パラサイト、ネット難民など不甲斐なさが目立つ若者群ですが、「やるじゃないか」と思える若者もいます。先日の夕方テレビで見て知りました。
(^_^)今週の狂短歌(^_^)
○ ひどいなら行動せねばと走り出す 今も昔も若さの特権
大阪一ひどいと言われた駅前の違法自転車駐輪が、一年もたたずにきれいさっぱり解決されたという話題がテレビで取り上げられていた。行政の工夫やてこ入れもあるけれど、最も素晴らしいと思ったのは、一人の若者が「ボランティア」でその整理と利用者の駐輪指導に乗りだしたことだ。
彼は朝になると駅前の歩道にまずコーンを並べる。それだけでそこへ止める人はいなくなったという。それを終えると無料駐輪場前で「おはようございます」と声をかけながら駐輪指導をする。いまや大阪一ひどかった駅前は自転車がほとんど止められていない。
一年前同じようなことをするボランティアじいさんと利用者との間ではトラブルが絶えなかったらしい。だが、今や若者とトラブルになることは少ないという。ある利用者は「彼の挨拶で変わったんだと思う」と言った。
その若者は駅前の駐輪状況があまりにひどいので、「仕事をやめ」ボランティアとしてその活動を始めたという。私はちょっとびっくりした。
彼はとても澄んだ目をしてさわやかにその仕事をこなしている。駐輪指導というボランティアに対して気負いもうんざり感もないので、目を見張った。
リポーターが彼に「将来の夢は?」と聞いた。
彼は「夢というか目標は市長になることです」と答えた。
これまた感心した(^_^)。あのボランティアは将来を見据えた長〜い仕事の一環なのだろう。
そして、ぜひ市長になってほしいもんだと思った。
もう一つは「自転車水車の移動図書館」で全国を駆けめぐっている若者の話である。
これもとても感動的だった。
その若者は土居一洋さん(28歳)という名で徳島県鳴門市の出身らしい。高校卒業後愛知県に就職した。
四年前、彼は二十世紀の戦争や環境破壊などを特集した写真集『百年の愚行』を見て大きなショックを受けた。そしていても立ってもおられぬ心境になり、「何か自分にできることはないか」と考えた。
その結果一昨年一月働いていた会社をやめ、「百年の愚考」を広めるため、自転車による移動図書館を始めたのである。
自転車の後ろにはリヤカーのように、車輪付き水車を取り付け、その水車に彼が読んでほしいと思った本を並べて各地を巡回している。かなりへんてこである(^.^)。
それと同時に全国三千ヶ所の公立図書館を回り、『百年の愚行』を置いてもらうことも目標だという。
道中いろいろなところで出会った人に本の貸し出しをしている。人は水車をくるくる回して本を見定める。子どもも面白そうに回転させて読める本を探していた。
貸し出しと言っても彼は定住者ではない。毎日自転車で移動しているのに、「一体返却はどうするんだろう」と思った。
すると彼は本を貸し出して「読み終えたら、次の人に回してほしい」と言うのだ。
これでまず感心した。これこそ正に「ペイ・フォワード」の変形ではないか。
さらに、彼は借りたい本が決まると「ちょっと待って」と言って裏表紙前の白いページ全体に大きな樹木の絵を描き始めた。根っこの幹と丸い大きな外郭線を一筆書きのように描く。
そして描き終えると、彼は「読み終えたらこの木に葉っぱを一枚書いて誰か次の人に渡してもらえませんか」と言った。つまり、人から人の手に渡れば渡るほどその木は葉っぱで一杯になるわけだ。
これまたものすごく感心した。そして感動した(^o^)。
ささやかな小さな一歩だが、やがて葉が茂った樹木となり、人々が変わる姿を想像できるではないか。
彼が水車に乗っけた本は環境問題に関する本が中心らしい。これが出版社や著者から依頼されたわけではないから驚く。全くのボランティアで、水車や本の購入費用などで百万ほどかかったという。おそらくそれまで働いて貯めた金を使ったのだろう。
そして、全国を巡りながら金が尽きるとバイトをして本の購入費を稼ぐ。そしてまた自転車で移動する。宿泊はテントで野宿をしているそうだ。
テレビではつらい体験も流されていた。一年前『百年の愚行』を置いてもらうよう交渉した図書館を今年また訪ねた。だが、図書館には置かれていなかったのだ。
だが、着実に葉っぱが増えている例もある。ある小学校では彼が置いていった本に数十枚の葉っぱが描き足されていた。子どもから彼へ「エール」の色紙も(スタッフによって)手渡された。彼は「ありがたいです。宝物にします」と嬉しそうに言った(^_^)。
番組では最後に長野から富山へ移動する様子が放映されていた。
標高千四百メートルの鳥居峠を越えて富山へ向かう。登りのくねくね道が四十キロほど続く。彼は必死に自転車をこぐ。さすがにしんどそうだった。しかし、ようやく頂上に到着すると後は一気に下る。下りに下る。さぞかし爽快だろう。
暗くなって下の町に着くと、町の公園にテントを張って寝る。夕食はモチをお湯で温めただけの素雑煮(?)だ。
すでに北海道から関東まで千六百カ所の図書館を回ったという。おそらく今日もどこかの町を走っているはずだ。
彼は「将来は?」と聞かれて返事に困っていた。いま環境問題に関して何かをやらなければならない。自分が将来どうするかなど問題ではない。ただ、やむにやまれぬ気持ちから行動を始めた――彼のちょっと思い詰めたような眼差しは、そのようなことを語っているように見えた。
素晴らしいと思った。私も若ければ、自分の作品を全国行脚して配りたいくらいだ。
二人の若者が共にいま働いているところをやめ、自らの意思でボランティア活動を始めたところが面白い。
親御さんがいるなら、「なんで会社をやめてまで」と言うだろう。「お前がそんなことをしなくても」と言ったのではないだろうか。
一人は市長になる目的を見据えての行動であり、一人はただ今だけを見つめて走っている。
しかし、どちらにせよ、彼らは「いま自分がやりたいこと」を何よりも優先して始めた。
ちょっと昔風の言葉だが「これこそ青春じゃないか」と思ったのは私だけだろうか。
1960年代から70年代のことが過去回想的、ノスタルジックに語られ映像化されている。だが、1970年前後、ベトナム戦争の悲惨さを耳にして、やむにやまれぬ気持ちから大学や高校を飛び出し、反戦運動に走る若者たちがいた。
私はそんなことも思い出した。
○ ひどいなら行動せねばと走り出す 今も昔も若さの特権
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
後記:文中「ペイフォワード」とは「善意の先送り運動」のことです。自分が何か良いことをされたら、そのお返しを相手に返すのではなく、別の人3人に与える。そして、その3人に「お返しはいりませんから、他の人3人に良いことをしてあげてください」と申し送ることです。キャサリン・ライアン・ハイドの同名小説で映画化もされました。これが真実になれば、1年も経たずに平和で犯罪のない素晴らしい世界になるはずなのですが……。(御影祐)
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