四国室戸岬双子洞窟

 『空海マオの青春』論文編 第 44

「室戸百万遍修行」その2


 本作は『空海マオの青春』小説編に続く論文編です。空海の少年期・青年期の謎をいかに解いたか。空海をなぜあのような姿に描いたのか――その探求結果を明かしていきます。空海は何をつかみ、人々に何を説いたのか。私の理解した範囲で仏教・密教についても解説したいと思います。

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『 空海マオの青春 』論文編    御影祐の電子書籍  第121 ―論文編 44号

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           原則月1回 配信 2018年 1月10日(水)

『空海マオの青春』論文編 

 2018年、今年もよろしくお願いいたします。m(_ _)m

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 本号の難読漢字
・御蔵洞窟(みくろどくつ)・神明窟(じんみょうくつ)・求聞持法(ぐもんじほう)・梵字(ぼんじ)・黄泉(よみ)の国・黄泉比良坂(よもつひらさか)・塞(ふさ)ぐ
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 『空海マオの青春』論文編――第44「室戸百万遍修行」その2

 「室戸岬百万遍修行」その2――双子洞窟の百万遍修行追体験(二)

 翌十五日未明、午前三時頃起きてホテルを抜け出し、双子洞窟に向かいました。
 南の舎心岳同様大いに感激するだろうと思ったのに、双子洞窟追体験は残念ながら失望に終わりました。ダイヤモンドのように光り輝く明けの明星を見ることができなかったからです。

 それは雨が降ったせいでも、曇ったからでもなく、こうこうと照る……灯台の明るさのせいでした(^_^;)。地上は満月ほどの明るさがありました。わずか数分ながらホテルから洞窟まで歩いて行くのに恐怖なぞ皆無。ライトを灯すことなく着きました。

 その後明けの明星は見られたけれど、四方八方に伸びる針のような光輝は放っていませんでした。仕方ないので前夜の明星を頭に思い描きながら明星を眺め、真言をとなえました(^_^;)。

 以下、室戸双子洞窟での追体験です。
 なお、この体験によって石碑解説の「向かって左(西側)を御蔵洞窟(みくろどくつ)と言い、そちらは住居として、右(東側)の神明窟(じんみょうくつ)が修行の場だ」とある記述は間違っていることがわかりました。少なくともこの時期の明星はみくろど窟からでなければ見えませんでした。

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 道路はペンライトを必要としないほど明るい。昨夜舎心が嶽で体験した真っ暗闇とは段違いだ。そのせいか昨夜のような総毛立つ震えは起きない。しばらく歩くと東の空にぼんやり下弦の月が浮かんだ。薄い雲が漂っている。見上げると空の天辺にWのカシオペア座がある。これで位置関係は確認できた。きっと月の近くに明星が現れるはずだと思った。
 赤みを帯びた月は雲に隠れ、また姿を現す。と思うとまた隠れる。明星はなかなか現れなかった(-_-)。

 三時四十分頃だろうか、ようやく月の右斜め上空に明星が輝き始めた。だが、それはダイヤモンドの輝きではない。昨夜南の舎心が嶽で見た明星と比べると、半分ほどの輝きしかない。もちろん充分きらめいてはいる。しかし、昨夜の明星を見ているだけに若干がっかりした。

 室戸岬で明星を見るのは初めてである。それゆえ比較のしようがないが、この明るさならどこか他の地域でも見たと思える――その程度の輝きしかなかった。しかも、明星はしばしば雲に隠れ、薄くなったかと思うとふっと消えてしまう。

 私は取りあえず双子洞窟までやって来た。双子洞窟前の広場も思った以上に明るい。ここでもペンライトは必要なかった。私はそこからしばらく月と明星を眺めた。そして、午前四時頃雲が低くなると、ようやく二つの輝きが一定してきた。

 私はまず東側(向かって右)の神明(じんみょう)窟へ入った。さすがに中は真っ暗でぞくぞくっとくる。すぐにギャーテー、ギャーテー、ハラギャーテーをとなえ、心を落ち着かせた(^_^;)。
 そして、内部から入口方向を見た。すると意外なことに月も明星も見えない。大きな岩がちょうどそちらへの視線を塞いでいるのだ。このとき初めて神明窟が東と言うより、南方向へ口を開けていることがわかった。
 明星が見えないのではこれ以上神明窟にいても仕方ない。私は西側御蔵洞(みくろど)窟へ向かった。

 入り口の鳥居をくぐって中に入る。さすがにこちらは奥が深いので、歩いて行くに従って真っ暗闇となる。昼間あったコウモリらしきものの鳴き声が全く聞こえない。潮騒の音も消え、しんとして静かだ。鳥肌が立ち、ぞくぞくとして身体が震えた。

 ライトなくして歩けない。しかも、明かりに照らされた大小の石仏が不気味である。入り口方向を振り返ったときには総毛だった。背後から何ものかに襲われそうな恐怖が走ったからだ。
 私は求聞持(ぐもんじ)法の真言「ノウボウ、アキャシャー、キャラバヤ、オンアリキャー、マリボリソワカー」を一生懸命となえた(^_^;)。もう覚えたようだ。なんの苦もなく口をついて出た。

☆ 「双子洞窟の月と明星」

 それから唯一の窓――入り口方向を見やる。それはかなり明るい窓だった。鳥居の向こうに下弦の月を見出し、その右上空に明けの明星を発見した。
 明星は先ほどより明るかったが、やはり昨夜見たダイヤモンドの明星ではない。灯台のサーチライトはかなり周辺を照らしているようだ。
 空海の時代を考えるなら、もちろん巨大な灯台などあるはずもなく、辺りは真っ暗闇だったろう。すると、空海はこの地でダイヤモンドの明星を見たはずである。

 私は頭の中で昨夜の明星を思い浮かべ、千二百年の時空を超えた空海の視線を感じ取ろうと思った。金星の日面通過が起こった西暦七九八年七月一五日、空海は確かにここにいた。そして、真言をとなえつつあの明星を見た
 千二百年など数億、数十億という地球史の中ではせいぜい十分前くらいだろうか。空海マオがこの洞窟から昨夜のように光り輝くでっかい明星を見たら、大感激したと思う。

 私は空海をまねする思いで「ノウボウ、アキャシャー、キャラバヤ、オンアリキャー、マリボリソワカー」の真言をとなえ続けた。そして、入り口の窓の形がまるで梵字「阿(あ)」のようだと思った。これもまた面白い発見だった。

☆ 「みくろど窟の形と梵字《阿》」

 それから洞窟を出た。4時半以降はエボシ岩近くから海と空を眺めた。下弦の月は次第に薄く白っぽくなり、有明けの月となる。明星もまた薄く灰色になり、周辺は徐々に明るくなった。
 やがて五時近く、灰色の月の下で普通の朝の景色となった。それでも明星はかすかに見えていた……。
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 二〇〇四年七月十五日は金星の日面通過後、明星最大光輝の日であると聞いていました。
 しかし、残念ながら太龍山で見たダイヤモンドのような明星を見ることはできませんでした。

 ただ外が明るかった分、みくろど窟の暗闇ぶりは際だっていました。洞窟内に明かりはなく、ペンライトを消して十歩も歩けば真性の闇でした。どんなに目を見開いても何も見えないのです。
 振り返れば入り口である窓は(月明かりのような明るさのせいで)くっきり見えました。なのに洞窟の奥に目をやれば一寸先も見えず、まるで漆黒の壁が立ちふさがっているかのようでした。
 洞窟内はとても静かでした。昼間聞こえたコウモリの声は消え失せ、不思議なことに入り口で聞こえた潮騒の音も、十歩入ったくらいで聞こえなくなりました。突然静寂と暗黒の別世界に飛び込んだ感じです。

 明星を見ながら真言をとなえるわけだから、当然洞窟の奥に背を向けねばなりません。それがまた恐怖の極みでした(^_^;)。正に「総毛立つ」感覚で、頭髪が後ろに引っ張られ、夏なのに寒気がして鳥肌が立ちました。私は必死の思いで真言をとなえました。

 このとき感じた恐怖は太龍山とは違いました。前夜の「石仏が動き出したらどうしよう」とか、「何千本もの手を持つ木が襲ってくる」と思う恐怖ではなく、背後に何ものかがひそんでいると感じる恐怖でした。
 太龍山ではそれ――物は目の前に見えていました。ところが、真っ暗な洞窟内では見える物がありません。見えない闇の中にまがまがしい何ものかがひそんでいそうな想像です。だから、奥に背を向けることがとてつもなく怖かったのです。

 分析してみるなら、私に思い浮かんだのは「ここは魔界・冥界とつながっているのではないか」という想像でした。洞窟の奥にいるのは魔物ではないかと思ったのです。
 ここでも日中洞窟に入ったときは考えもしなかった妄想です。洞窟は昼間でも不気味だったけれど、お天道様の明るさは内部を充分照らしていましたから。

 しかし、深夜の丑三つ時、洞窟の中は十歩も入れば、もう外の光が届かない真性の暗闇。
 そして、一度「洞窟は黄泉(よみ)の世界とつながっているのではないか」といった想像にとらわれると、奥の闇を見るのはものすごく怖い。背を向けて入り口を見ることももっと怖い。振り返ったら目の前に魔物が立っているような気がするからです。
 今すぐ洞窟から出たい。「こんな時間に来るところじゃない」と思って震えました(-_-;)。

 それは私に子供時代読んだことのあるさし絵付き「古事記物語」を思い起こさせました。
 イザナギ・イザナミの国づくりのラストは愛するイザナミが死ぬお話です。イザナギは黄泉(よみ)の国まで妻を連れ戻しに行って大変な目にあいます(詳細はネットでご確認下さい)。
 私が読んだ物語ではイザナギが洞窟に入り、やがて扉をはさんでイザナミと言葉を交わす……ように描かれていました。洞窟は黄泉の国とつながっている。もしかしたらそれは私たちの共通感情かもしれません。

 その後『古事記』原典を読んで、イザナギは「洞窟に入った」と書かれていないことを知りました。イザナギは出雲の国にある「黄泉比良坂(よもつひらさか)」を下り、扉をはさんでイザナミと対面した――とあります。

 思うに、これって妙な舞台設定です。現実の空間であれ、異次元空間であれ、単なる坂の途中に扉があるのはへん。それだとドラエモンの「なんでもドア」になってしまいます(^.^)。
 洞窟なら「現世と冥界を隔てる扉が洞窟を塞いでいる」との設定はすんなり受け入れられます。

 その後イザナギは腐り果てた体となった妻を見たことから、「約束を破ったな」とイザナミに追いかけられ、黄泉比良坂(よもつひらさか)まで戻ります。そして、千人力を必要とする巨岩「千引(ちびき)の岩」を坂に置いて道を塞ぎます。

 これもまた妙。山腹の断崖絶壁にある道ならいざ知らず、単なる坂の頂上に巨岩が置かれたら、脇を通ればいいではありませんか(^.^)。しかし、イザナミは岩の向こうで、これ以上追えない怒りと恨みから「お前の国の人間を毎日千人殺してやる」と言うのです。イザナギが「それなら私は毎日千五百人生もう」と応じるのは有名。
 これはやはり「比良坂」という名ながら、黄泉の国に通じる道は洞窟の中にあると考えた方がすっきりします。洞窟の入り口を巨岩で塞がれたら、さすがにもはや通れないでしょうから。

 推察するに、古事記作者は「黄泉比良坂(よもつひらさか)とは洞窟の入り口であること、イザナギは洞窟を進んで黄泉の世界に至ったこと」――これをわかり切ったこととして、洞窟だと明示しなかったのかもしれません。

 この件でネット事典を検索してみたら、『日本書紀』の同じ場面に「黄泉比良坂は「熊野の有馬村の花の窟」であると書かれているそうです。「窟」とは洞窟のこと。
 また『出雲風土記』にも「北の海岸沿いに洞窟があり、そこに入れば人は必ず死ぬ。これを黄泉の坂・黄泉の穴と名付ける」とあるそうです。

 よって、私が未明真っ暗闇の洞窟に入ったとき、「この穴は魔界・冥界とつながっているのではないか」と感じたことはあながち的外れではなかったと思います。

 古代に生きた空海マオもみくろど窟で奥に背を向けたとき、ものすごい恐怖を感じ、「ここは黄泉の国とつながっているのではないか」と感じたのではないか。そして、求聞持法の真言をとなえてその妄想と恐怖を追い払ったと思います。

 私もまたそうしようと懸命に真言をとなえた……はず。ところが、旅の記録を再読してみると、前夜と違って「妄想や恐怖を心から追い払えた」と書いていません。

 今振り返ってみると、真言をとなえることで恐怖感が薄くなったことは間違いないと思います。しかし、このとき感じたのは「洞窟の中で真言をとなえ、外に浮かんだ明けの明星を見ることは太龍山のときと何かが違う」という感覚でした。
 何かが違う。だが、旅の時点ではその違いを表現できなかった。だから、何も書かなかった(書けなかった)のだと思います。
 空海マオもまた双子洞窟での百万遍修行に、南の舎心岳の求聞持法とは違う何かを感じたのではないか。それが何か考える必要があると思いました。



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 最後まで読んでいただきありがとうございました。

後記:本文に関連した「双子洞窟から見た月と明星」の画像などは「四国明星の旅」9にありますので、ご覧下さい。
   → 「四国明星の旅」9

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